巨樹を訪ねる 日根牛の大クリ

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K-1 mark2 / HD PENTAX-D FA 28-105mmF3.5-5.6ED DC WR / CarlZeiss Jena Flektogon 20mmf2.8

 登米(とめ)市は、宮城県の東側の最北部に位置する市。より海側には津波被害が大きかった南三陸町、北へ進めばもはや岩手県一関市という立地です。
 登米市登米町(とめしとよまちょう)という地名、一発で読めますか? 県外の人は無理でしょうね。笑
 この町にある大栗を訪ねてきました。

 登米市の真ん中をうねりつつ貫通する北上川ぞいに進み、大河から程近い距離で狭い住宅地へと進入。
 一見、こんなところに巨樹があるのか? と思うような路地のようなところですが、ありました。
 ぱっと視界にその幹が入ると、あれだ、間違いない! と確信します。
 「日根牛の大クリ」という樹です。

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 周囲で大規模な区画工事が実施中で、入口があちこち封鎖中。
 どこから近づけるかわからなかったので、一旦車から降りて休工中の現場の端を歩いて様子を見に行きました(結果、靴に鉄下駄のごとく重い泥が)。
 後で地図を参照してみると、どうやら保育園(幼稚園?)があったようで、その一帯と道路を掘り返して再開発しているらしい。
 ぐるっと回って、路地のような道から入ることができました。

 ちなみにこの日は、巨樹撮影における超広角レンズの使い所を体感したく、フレクトゴン20ミリという骨董品を持ち出しました。
 40年くらい前のレンズなのでゴーストが出るのはどうしようもないですが、それにしても冬のこんな逆光バッチリの日に使うもんではないですね。笑
 (以下、現行レンズと骨董品レンズ、どちらで撮った写真か、クイズをおまけにして楽しんでください)

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 全貌が見えてくると、その太さが際立っていることがわかります。
 そこまで高木化しないであろうクリですが、この樹は低い。
 記録では樹高10メートルということですが、幹自体は4メートルもないでしょう。
 しかしというか、それゆえにというか、ほとんど寸胴に見える太い幹に注目がいきます。

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 山形で見た「大井沢の大栗」がまだ印象に新しいですが、あちらが野生種に近い「柴栗」であるのに対し、こちらは我々に馴染み深い、大きな実をつける「丹波栗」です。
 丹波栗はその名の通り、丹波(兵庫県)の原産らしいので、当然野生ではなく、人の手によって植えられたものでしょう。

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 伝えるところによれば、古来ここに蔵福寺という真言宗の寺があったようで、そこに縁がある樹なのではと言われているらしい。
 宗派や僧侶のネットワークなどはあったでしょうし、産地が異なる樹が植えられる理由としては納得がいきます。
 今となっては影も形もありませんが、その寺の存在した年代から樹齢が推定され、330年と表記されていました。
 ただし、その解説自体も天然記念物指定の時のものと思われ、それが1973年。
 ということは、ざっと350年から370年ほどと考証して良いということになるのでしょう。
 それも納得できる古木ぶりです。

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 これまで訪ねた中で樹高が比較的低いものといえば……と、我が巨樹名鑑を探ってみますが、主幹レベルでの「低さ」では、これまでで一番低い樹かもしれません。
 前述20ミリで撮ると、横構図でもすっぽり収まってしまいます。
 これほどまでに縦構図で撮らなかった巨樹も、そう無かったはず。

 太い幹は見事なまでに右回りにねじれながら成長した単幹。
 太さが上部まで変わらず、そこから3、4本の太い枝を出しています。

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 荒っぽく鑿を入れたようなゴツゴツした質感が、横から指す強い冬の光で余計乾いて見える。
 一瞬、嫌な予感がしました。
 しまった、もしかして、来るのが遅かったか……? と。

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 傍らには、大きく枯損した枝の残骸が横たわる。
 これも良くない暗示を与えてくる。

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 おそらく、この一番大きな枝が折れたものなのでしょう。
 この太さ、これは惜しい。
 太さ重さゆえに強風などの影響をもろに受けたのかもしれません。 

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 周囲が再開発で殺風景だったせいもあるでしょうが、それにしても、この姿はただの枯れ木にしか見えない。
 この老いさらばえた姿を見て、誰が栗の豊かな実りを想像できるでしょうか……。

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 しかし、まだ枯れてはいないのだということを、春を待ち望む小さな芽たちが気づかせてくれました。
 宮城でも最北の地にあって、芽吹くのはまだまだ随分先のことなのでしょう。
 辛抱強く待ち続け、あるいは渾々と眠って、ついに迎える目覚めの春……それをもう何百年も続けてきた樹なのですね。

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 葉や実の最盛期にもう一度来てこの樹の本当の姿を見たい。
 そう思う一方、この冬を耐え忍ぶ姿を見られたことも、また良かったと思いました。
 だって、最盛期の姿を見てしまった後では、それを全部落とした姿を見に来る気には、なかなかなれないでしょう。
 咲いている時ばかり注目されて、冬の間はそこにあることも忘れられてしまう桜たちと同じように。

 低い樹だけに、葉、樹冠はすぐ頭上を覆うようになるのではないでしょうか。
 そう想像しながら見ていくと、この枯れ木のような樹がだんだん愛おしく思えてきました。
 そうだな。この冬枯れの姿を見たんだから、夏か、秋か、ちゃんと勢いある時期の姿も見なきゃダメだよな。
 巨樹だって「不本意だ」って言うかもしれないね……と、そんなことも思いました。

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 解説板。いや、ほとんど読めません。笑

 この栗は丹波栗で高さ約十二米 根周り約八米 目通りの幹周約五米で栗としては県下稀にみる大木である。
 慶安元年(一六四八年)この地に真言宗蔵福寺と称する寺があり、その頃植えられたものといわれ、樹令約三百三十年位と推定される。

 ……と、こういう内容です。
 前述の通りもう寺は影も形もなく、その後に建ったと思しき(もしや寺子屋だった?)保育園も更地にして工事中。
 この栗の樹が再び葉を付ける頃には、周囲はどんな風景になっているのか。
 季節の表情も、実りもある樹です。
 地域の歴史の生き証人としてこの先も大切にしていってほしいと願います。


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「日根牛の大クリ」
宮城県登米市登米町大字日根牛浦小路
推定樹齢:350年以上
樹種:クリ(丹波栗)
樹高:10メートル
幹周:5.6メートル

4コメント

to-fu  

天然記念物指定されていたことが幸いしましたね!
これが無指定の巨樹だったら区画工事に乗っかって真っ先に伐採されていたことでしょう。

背が低いからか、幹周はむしろ数値よりも大きく見えました。
横に広がりがあるので葉を付けたら結構圧倒されるかもしれませんね。
季節で随分と印象が違いそうな巨樹です。
僕が見た弱ったクリの巨樹は近所の方によると樹勢が衰えてからクリの実を
ほとんど付けなくなったそうなので、足元のイガイガたちを見るに実は結構元気なのかも?

あ、フレクトゴンさん。四隅がちょっとアレですが、ここみたいに絞れるほど
明るい平地だったら充分使えそうですね。一度訪問した巨樹なんかは単焦点を何本か持って
再訪して、今度はじっくり向き合いながら撮影してみたいという密かな願望があります。

2020/02/13 (Thu) 17:04 | EDIT | REPLY |   
狛

狛  

to-fuさん>
言われてみて、確かにそうかもしれないと思いました。
天然記念物になっていなくてこの冬枯れの姿を見たら、ブルドーザーしてしまうかもしれません。
名前をつけて、マップに載せて、我々のようなのがたまに訪ねる。ログを残す。
実はそれが根底を作るのかもしれませんね。
to-fuさんのログにあったように、地元の人とその場の巨樹のことを会話するのもかなり重要。
「外から観にくる人だっている」と気付いてもらうのは大きいですよね、やはり。

この冬の姿は大変悲しげなものですが、よほど玄人になったものか、これ、また葉がある時に来たいぜ……と思ったら、仮想の樹冠を見たような気分になって、気持ちがかなり高まりました。
確かに、カヤやカキなんかもそうですが、実の量は樹勢に直結していますよね。だから、その樹冠もあり得るわけです。
これはまた半袖の時期にでも寄ってみたいものですね。うん。

フレクトゴンは、室内や曇りの日に絞って使う分には実用できるレベルだと思います。また、レンズ本体がなかなかカッコいいんですよ。笑
こうしてみると、現行レンズはどうしたらこんなに対逆光できるんだ……と唖然とするくらいの性能がありますね。
確かに、味わい深いレンズを持って、私的・詩的に好きな巨樹を撮りに行くのは最高に粋だと思いますね。
また会いにきたよ……と、2度目3度目の巨樹には声をかけてしまいますが、その心情やムードにもぴったりです。

2020/02/13 (Thu) 21:31 | EDIT | REPLY |   

RYO-JI  

開けた明るい場所にあるのに、寂しげな姿が印象的な栗ですね。
平穏無事に長年生きてきた巨樹とは対照的に、壮絶な生き様だったんだろうなぁと。
最近になってもまだ大枝が折れるという試練があったようで、どれだけ苦労すればいいのか?
栗に変わってそう神様に聞いてやりたくなりますね。
この姿を見るとどうしても末期症状的な判断をしてしまいがちで、新緑の時期やたくさんの実を付けた姿なんて想像できません。
それでも落下したイガイガや新芽の息吹を発見すると、まだまだ生きていると実感できます。
時期を改めて元気な姿を見てみたいですよ。
栗に限らず落葉時は避けてしまいがちの巨樹探訪ですが、落葉時→勢いのある時という順番で巡ると更に楽しめそうですね。

単焦点20mmは私も少し試してみようかと思っています。
広角ズームも欲しいですが、手持ちの20mmで試してみてもっと広い画角のレンズが必要か否かを判断したいなぁと。

2020/02/15 (Sat) 22:07 | EDIT | REPLY |   
狛

狛  

RYO-JIさん>
桜もそうですが、温暖な季節が巡ってこなければ、生きてるのか死んでるのかわからないような見た目ですよね。こういう姿でじっと耐えているのだろうなと。
ぜひもう一度、この大栗がどれくらい生きているかを見に行ってみたいものです。
ほんと、逆はがっかりしますが、これからその姿が見られると想像すれば、楽しみになりますよね。

写りそのものよりもまず画角が必要かどうかを判断したかったわけですが、便利でした。笑
20ミリがあればおおよそ十分ではないか……とも思いますね。
やっぱりそれ以上になるとかなり大袈裟な絵になってきますし、撮影も難しそうな印象(とは言え、慣れるまでやったこともない)。
20、24、28ミリ域で画質が良い広角ズームが欲しいなと思いました。

2020/02/17 (Mon) 12:20 | EDIT | REPLY |   

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