巨樹を訪ねる 諏訪神社の翁スギ媼スギ

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K-1 mark2 / HD PENTAX-D FA 28-105mmF3.5-5.6ED DC WR


 以前訪れたものの、コンディションと機材の勝手がいまいち良くなく、記録に残せたとは言い難かった福島県小野町の巨樹。
 使い慣れて来た高性能なカメラを装備しての再訪問に挑みました。

 まずはこちら。
 このツインタワー的たたずまい、もはや何も演出する必要はありませんね。
 国指定天然記念物の巨杉(たち)、「諏訪神社の翁スギ媼スギ」です。

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 冬真っ最中。積雪こそないものの、指先がかじかむ寒さです。
 ばらばらと雪も降り出していましたが、高感度性能に長けるフルサイズ一眼レフなら特に気にしなくていい。
 前回、ぶれたり黒つぶればかりでほとんど写真にならなかったことを考えると、かなりの進歩です。

 小野町の市街から15分ほど走っていくと、道沿いに杉の名称が書かれた立派な看板があり、迷うことなく駐車場に車を入れることができます。
 鳥居をくぐって進んでいくと……出たな、と、巨樹好きならばニヤリとする光景。
 じっと見て……どれが手前にある杉かわからなくなるようなこの感覚……。
 そう、巨杉たちが初見でその大きさを誇示する、遠近感錯視エフェクトが発生しています。

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 天然杉ではありえず、御神木として、そしてこの現在の姿のように並び立つべくして同時期に植えられた杉です。
 何百年前の仕事かわかりませんが、植えた人が今の姿を見たら、「思い通りになった!」と膝を叩くのではないでしょうか。

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 「翁」「媼」と書いて「じじ」「ばば」と読むらしい。おきな、おうな、ではちょっと品が出過ぎだと思ったのか……。
 一対の神木級の杉をジジババと呼ぶのは各地にある風習です。
 「老いている」という意味よりは、「大昔から生きていて何でも知っている」というように尊ぶ形なのでしょう。
 この樹も推定樹齢は1200年とされていますが、巨樹の常で、そこまで年経ているようには見えません。
 500年くらいがいいところではないでしょうか(勘)。
 いや、500年でも、遡れば戦国時代ですからね。大変な「翁」「媼」に違いはありませんが……。

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 寺社の巨樹を見せていただく場合、できるだけ先に参拝参詣を果たすことに決めています。
 そうすることで本格的に撮る前に巨樹をチラ見することになり、段取りが漠然とつかめることもあります。
 私はどこから来た何者で、この立派な御神木を見せてください……などと挨拶します。
 あと、50メートル上空から枝を落とさないでください。とも。

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 実際、見上げるのが辛いくらいに背が高い。
 爺婆、男女と対になって育っても、数百年のうちに片割れを失ってしまう悲劇に見舞われる巨樹も多い。
 ツインの巨樹というカテゴリーにおいて、この二本の健勝ぶりは特筆すべきでしょう。

 どちらがどちらという、いわゆるジェンダー差?が思い浮かばないくらいよく似ています。
 お互いに邪魔をしない方向に、同じような高さから枝を伸ばしている。
 ここもやはり、美的観点と人の手が加わってこうなったのだと思われます。

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 樹と樹の間は一番狭いところで1メートルほどだそう。昔の本の写真を見ると、ここにデッキのようなものが作ってあり、間を通ることができたようです。
 ぜひともそこで迫力満点のヒューマンスケール写真を撮りたくなりますが、樹の保全に関しては明らかに悪い。
 ましてや「映え」云々でここまで大騒ぎになる現在。立ち入れないように処置したことは賢明な判断として拍手すべきでしょう。
 我々と巨樹と……相反しているものだとは考えたくないものです。

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 気温はちょうど0℃。30分ほどで満足し、お礼を言って戻って来ました。
 幹周囲9メートル、高さ50メートル近い巨樹が2本も直立している様はかなり迫力があるのですが、いかんせん人の手を多く感じるところがあり、シンプルな印象に止まりました。
 天然の裏杉たちの野蛮さや、一部の巨杉にあるじわっと溢れ出す神々しい生命感といった、エモーショナルなものをあまり感じません。
 いや、だから悪いとは言っておらず、国天という評価に関してもこの樹の場合異論はありません。
 ただ、もっと自由なカタチに生きさせてあげるのもいいかな……などと思いました。

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 解説板。
 樹勢は確かに悪くは見えませんが、感情移入しやすい目からすると、これを「旺盛」と呼ぶのはちょっと違う感じがする。
 旺盛というのはやはり、あのむせ返るような緑と襲いかかって来そうな迫力のことを呼びたい。
 これは、人の手による杉、表杉の理想形なのかもしれません。

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 神社のいわれも書かれていました。
 背景に、東北における朝廷と蝦夷の勢力争いがある。「反逆」とありますが、本当に反逆だったか。朝廷が侵略する名目ではなかったでしょうか。

 戦勝祈念に一対の杉を植えるというのは、茨城の「三浦杉」も全く同じ。
 三浦杉では大妖怪・九尾の狐を討伐するという名目でしたが、化物は比喩で、やはり敵は蝦夷などの地方勢力だった可能性が高いのではないでしょうか。

 勝ち戦であった暁にはこの杉、天を衝く巨樹となれ……と祈念するのがセオリーなようで、巨樹=神通力の生ける証明とする。
 しかし、樹が枯れてしまうと、逆に神通がないことの証明になってしまうでしょうし、大きくなったのを見計ってその話を後付けした可能性の方が強いと見ます。
 諏訪神社は勝負事の神様でもありますしね。
 ここでは、「おきな」「おうな」杉と書かれていますね。

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 名所案内もありました。「日本一の大杉」は明らかに盛りすぎ。笑
 良いコース。見所が多く、春には桜がとてもきれいだと思います。歩いてみたいですね。

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 立ち去りぎわに振り向くと、他を圧倒して太く高い幹が覗いていました。
 どちらかというと建造物のような後味を残す巨樹ですが、再度見に行けて良かったと思います。
 この規模のものを放ってはおけません。笑


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「諏訪神社の翁スギ媼スギ」
 福島県小野町夏井 諏訪神社
 推定樹齢:1200年
 樹種:スギ
 樹高:48.5/47.8メートル
 幹周:9.2/9.5メートル

4コメント

RYO-JI  

「日本一の大杉」はさすがに盛り過ぎですが(笑)、このサイズのツイン杉はあまり見かけないかと。
幹周・樹高とも単体でも充分見応えある巨樹だと思います。
全形を捉えられないくらいの同じ大きさが二本並んでってスゴイことです。
ただ狛さんがおっしゃるように野性味はあまり感じませんね。
いい意味で御神木になるべくしてなった品の良い巨杉だなぁと。

後世に語り継がれる史実は、結局は当時の権力者サイドからの見方なので事実とは歪曲されている場合が多そうですね。
その真意を探り出そうとすれば、それこそ一生を棒に捧げることになりそう。
我々巨樹愛好家は、想像するくらいが丁度良いのかもしれませんね(笑)。

2020/01/10 (Fri) 22:58 | EDIT | REPLY |   

to-fu  

ここまで対等の大きさで「じじばば」が揃っているのは本当に珍しいですね。
仰るように大体片割れが酷いことになっている場合が多いので、これは見ごたえがありそうです。
夫婦杉というのではなく、爺さん婆さんというのがそちららしいです。
(何故か関西ではじじばば表現の巨樹はあまり聞かないんですよねえ。茨城県なんか爺が複数本あったくらいなので驚きました)

樹皮を見る限り結構若そうなので私の見立てでも狛さんと同じくらいの樹齢では?という感じですが、
むしろこの若さ(たぶん)でこのサイズ、しかも2本というのは凄い成長速度ですね。
確かにかなり大掛かりに人の手が加わって現在の姿を成した印象ですが、数百年かけて
人と自然が共同作業で作り上げた盆栽だと考えるとそれはそれで凄いスケールの話のように思えてきます。

シンプルな姿だけにどうやって撮ってやろうか…なんて考えたら混乱してしまいそう。
機材の件を抜きにしても何度もあーでもないこーでもないと撮り直したくなりそうな巨樹ですね。

2020/01/10 (Fri) 23:47 | EDIT | REPLY |   
狛

狛  

RYO-JIさん>
確かに、品がいい杉ですね。
茨城が誇る「三浦杉」もほぼ同等のスペックを持っていますが、生育している位置関係からツインとは言い難いような気がします。
ツイン杉というカテゴリーがあるとすれば、この「翁」「媼」は代表格に君臨できる杉だと思います。
……あ、「杉の大杉」は微妙になんか違うということで。この際。笑

東北を巡っていると、こうした戦乱にまつわる伝承をよく見かけます。
巨樹にまつわる伝説も、そんな色がついていることが多いですよね。
研究するのも面白そうですが……なかなか胡散臭い話もあるし、惑わされて変な方向にいかないように気をつけたいものです。
そうですね、我々は巨樹愛好家の範疇で。

2020/01/11 (Sat) 23:14 | EDIT | REPLY |   
狛

狛  

to-fuさん>
ほぼクローンのような姿形で、植えられた互いの距離もちょうどよく、合体することもなかった。うまく行った! というところなんだと思います。
言われてみれば、確かに「夫婦」の分布は関西圏ですね。こちらには、ないわけではないですが、少数かも。
代わりにジジババはありますもんね。年寄りの価値が高く見られていたのか……ぜひゆくゆく、もっと北の岩手や秋田、青森の風土まで体感して、考えてみたいものですね。

小野町は雪はそこそこかもしれませんが、けっこう寒い土地のように思います。
杉はこういうところでもこんな巨大に育つんだなあ……と、感心しました。
社叢の他の杉も大きくて、もう一本、5メートルクラスのものも。
この見た目を保つためにはこれからも手入れが大切でしょう。そう言った意味で国指定天然記念物指定は必要なものなのかもしれません。
もうほんと、こうとしか撮れないんですよね。笑
ひねりがないというか……なさすぎだろう! とひたすら上空に叫んでみます。

2020/01/11 (Sat) 23:24 | EDIT | REPLY |   

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