巨樹を訪ねる 滝の沢の一本杉

yamagata2005.jpg
K-1 mark2 / HD PENTAX-D FA 28-105mmF3.5-5.6ED DC WR


 世の中には、絶対に縦構図でしか撮れない樹というものが存在します。
 山形県最北部の真室川町に存在する「滝の沢の一本杉」もそのひとつ。
 言うまでもない、高すぎるほど高い、巨大な杉です。

yamagata2006.jpg

 真室川町の中部、釜淵という駅から県道192号線で東へ。
 中田春木川という川と県道が交差するあたりで、この杉の名が書かれた看板に出くわします。
 ここから入って林道を4キロ。

 自分と同じ探訪をしようという酔狂な方はそういないと思いますが、夏の「松保の大杉」に続いて、今回、道のことを書かねばなりますまい。
 実はここ、1ヶ月ほど前にもチャレンジしたのですが、ハードなどろんこ状況、林業作業とのバッティング、単純に心が折れた等の憂き目に遭い、撤退を選択してしまいました。
 街中で家々を見ても、玄関が二階にあったり風除室があったりする土地柄ですから、12月を前に、これが今年最後のチャンスとなるのは明確。前回の経験を踏まえ、意を決してかかる今回の挑戦です。

yamagata2007.jpg

 しかしまあ、今回も雨なんですよね……と泣きそうになる。
 東根あたりでは晴れ間が出ていたのに、ここはもう別の国ということでしょうか。
 走った経験があるので進むことができますが、路面状態はなかなか悪い。いや、写真のところはまだマシなのですが……。

yamagata2008.jpg

 半分(1/3?)ほど行くと、その先が国有林である旨の看板が立っています。
 立ち入り禁止ではなさそうですが、その先でどんな目に遭っても一切責任は負わないという、例の感じ。
 で、そこからさらに道が悪くなってきます。

yamagata2009.jpg

 林業のトラックが通行しているので、車両通行不能ではない。
 しかし、地表がドロドログズグズで、材木を積んだ大型車によって掘られた轍がものすごく深い。
 ここにハマると、地上高が高いSUVでも腹を擦りますし、力のない車だと乗り越えられない可能性も。
 2WD……うーん、多分行けると思うけど、多分……え、新車? やめといた方が身のためよ! そんな感じです。はい。

yamagata2010.jpg

 速度を出す気になれないので15分ほどもかけて進んだ先、分岐が現れますが、これを左へ下ってはダメです。
 特にミラとかアルトとか……そういうのでここまで来るのは、その時点でクレージーとしか言いようがありませんが、この先の坂を下ったら、帰って来れなくなるかもしれません。ドロドロです。
 いや、直進するにしても泥が深いんですが……それでもここを直進なのです。
 果たしてこの先どんなひどい目に遭うのか……と進んでいくと、意外、数十メートルで林道終点でした。
 そして……


yamagata2004.jpg

 何の前触れもなく、横目にその巨杉が現れます。
 間違いようもない。これだ!
 道よりも一段下から立ち上がっています。
 雨が降り出していましたが、嬉々として車を降り、駆け寄りました。

yamagata2003.jpg

 「滝の沢の一本杉」。
 その名に全く恥じることのない一本杉です。
 周囲の杉たちとは全く異質な存在感、そして何よりその巨大さ。
 山形の最北部に生息するこの杉は裏杉であるべきで、大胆に根元から分岐した形状であってもおかしくない。
 ところが、こうした直立姿勢であるのはどういうことか……。

 いや、ちょっと考えましょう。
 こんな写真を見せられたところで何も伝わらないということは、撮り始めてすぐに気づいていたことです。

yamagata1997.jpg

 一度斜面を戻り、一段上(車のそば)に三脚を据え、ヒューマンスケールです。
 どうでしょうか。この杉が特別である理由が少し伝わったでしょうか。
 完全な一本杉。その目通り幹周は11メートル超、樹高は49メートルとされています。
 何も言うことはない。これは、ただただ、でかい!

yamagata2001.jpg

 先ほども書きましたが、裏杉でしかるべきところ、見事な直立体型です。合体や分岐も全くない。
 すぐ根元で振り仰ぐと、張りも色艶も良い樹皮が柱そのもののように聳え立って、荘厳な眺めに見惚れてしまいます。

yamagata2000.jpg

 この杉には異称があって、何を隠そう、「お化け杉」というらしい。
 なるほど、化け物じみた巨大さであるし、天を指してうねり上がっていく枝の様子はおどろおどろしい。
 悪天候の中あの林道を走ったせいもあるか、かなり前向きに言っても陽気50:陰気50に留まる印象です。

yamagata1998.jpg

 思い切って横構図で切れば、こんな感じです。
 大きく広げた腕のような大枝に緑はほぼなく、骸骨じみている。暗く、刺々しい。
 雨が強くなっていましたが、この巨樹と周囲の杉林に守られて、降りの割には濡れませんでした。

yamagata2011.jpg

 やはり幹の素晴らしさを見るべき巨樹です。杉の巨樹として正しい方向性、いや、理想型と言うべきか。
 このレベルの巨杉にここまで接近できるところも、秘境・山形ゆえの体験か……。

 ものの本によれば、この杉は古来から狩猟を行う人々にとって目印の樹であり、集合場所や休憩場所であったということです。
 それとともに、いつの時代からか根元に石仏が祀られており、注連縄をしていた時期もあったようです。
 現在、それらを探しても見つかりませんが、石仏はやはりいつの間にか杉に取り込まれ、完全に根幹の中に没したということのようです。
 なるほど、この幹の大きさ、勢いならば、そう言われても何の不思議もない。

yamagata2002.jpg

 これだけの体躯になるには、やはりそれなりの水利がなくてはならない。
 雨が強くなる中で気付くのが遅れましたが、向こう側はどうやら沢か湿地のようになっているらしい。
 山形北部は霧がかかることが多く、雨量も積雪も多い。日照時間も短いとのことで、このような環境全てがこの巨樹の体躯に体現されているのではないかと感じられました。

yamagata1999.jpg

 解説文は存在しませんが、代わりにあるのがこちら。
 そう、メンバーが揃いも揃って険しいところにあると有名、こんなの誰がコンプできるんだよ!? という(言い過ぎか?笑)林野庁「森の巨人たち100選」に選出されているのです。
 ああ、だからして。これは達成感ある訪問だった……などと、ひどくマニアックな充足感に浸ることができました。

 いや、決してそれだけではなく。
 この100選が2000年に制定されたという新しさに意義があります(それでも20年経つのですが……)。
 すなわち、しっかりした巨樹測定のレギュレーションと見立てによってデータが刻まれているので、神話的でもエコ贔屓でもなく、実感として実物と結びつけることができる。これは重要なことです。
 事実、無謀にもこの杉に長尺を当てがおうとしましたが、斜面に生えているのと、やはり11メートルなんていう巨大さは独りで回せるはずもなく、何もできずに終わったのですから……。

 
 例え東北住まいでも、真室川はかなりの秘境に当たるでしょう。が、もし探索する勇気あらば、是非とも出会って頂きたい巨樹です。
 ああ確かに、会いに来てよかった。これでソワソワせずに冬を迎えられる。
 そう気持ちを熱くして戻る泥だらけの道は、少しだけ走りやすく感じられるのでした。


yamagata1996.jpg

「滝の沢の一本杉(お化け杉)」
 山形県真室川町
 樹齢:300年以上
 樹種:スギ
 樹高:49メートル
 幹周:11.5メートル

4コメント

to-fu  

ヒューマンスケールを見るまでは正直狛さんちょっと盛りすぎてません?なんて
思ってしまいましたが、何だこれ。デカい 笑
というかこれヒューマンスケール必須ですね。名称が書かれた杭?まで何故か規格外に
大きいので、何か他に比べるものがないと絶対に迫力が伝わらないような気がします。
やはり山奥のスギはいいですね。しっかり管理された御神木なんかと違って、今にも
頭上に枝が落ちてくるんじゃないか?みたいな緊迫感が写真を見ているだけで伝わってきます。

しかしこれまた凄いところですね。真室川町。
ここまで来るとどこからどうアクセスするべきなのか想像すらできません。

2019/12/04 (Wed) 10:28 | EDIT | REPLY |   
狛

狛  

to-fuさん>
コレも、追手神社の千年モミと同じ系列で、自分を置いてやらないと全然真価を発揮しませんね。
姿がシュッとしてるので見応えがなさそうですが、現場ではちょっと近くのが躊躇われるような、自分の身長が半分になったような圧迫感に襲われます。いや、杭もなかなか立派でしたけど。笑

樹齢も750年説と、この300年説とあるんですが、野生と人の管理下のちょうど間にある杉だと感じました。
今でもメジャーではないかもしれませんが、ひょっとしたら林業の人は気を遣っているかもしれません。
真室川町はすごいところですよ。ぜひ一度お連れしたい。長旅になりますけどね。笑

2019/12/04 (Wed) 19:44 | EDIT | REPLY |   

RYO-JI  

いや、ほんと、to-fuさんと同じ印象でした。
『狛さん、盛り過ぎでしょ!』って(笑)。
しかしヒューマンスケール写真で、まんまとスギのバカでかさを実感できました。
直立一本杉でこのサイズはなかなかありませんもの、驚きましたよ。
やはり森の巨人たち100選は伊達じゃないですね。

ぬるま湯に浸かっている関西人には、東北地方の自然環境は想像もできない世界なので、
こんな化物スギがあっても不思議じゃないとすぐに受け入れてしまいました。
ですから一度断念した場所に再度チャレンジする狛さんの気持ちも理解できます。
が・・・、それにしても過酷、2WDの私だったら撤退間違いなしです(汗)。

2019/12/05 (Thu) 22:08 | EDIT | REPLY |   
狛

狛  

RYO-JIさん>
場数を踏んできたこともあり、到着前からだいたいの予想がついていたのですが、現地で前に立って、こいつはまずい……と思いましたね。笑
クスではもっと大きいのがありますが、スギで11m超えクラスというのは、独特の緊張感がありますよね。大きさの感覚が全く違います。

おっしゃる通り、でかいではなくバカでかいという感じ。東北ででかいというのは、我々にはバカでかいになる感じがします。
東北の冬は厳しい……と市街地でも感じます。手持ちの一番厚い真冬装備をもう着てます。笑
山形なんか人の住む土地じゃねえ……と思うんですが(失礼)、だからこその文化や自然が残っているのですね。
車両は、駆動力は足りていても、下がつっかえちゃうときついですね。

2019/12/06 (Fri) 08:15 | EDIT | REPLY |   

コメント投稿