巨樹を訪ねる 大井沢の大栗

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K-1 mark2 / HD PENTAX-D FA 28-105mmF3.5-5.6ED DC WR

 はっきり言って山形の地理には全く勘が働かないんですが、ここでも巨樹が良い目印として導いてくれます。
 良い……うん、良い。よい。

 西川町というところは、この後通うようになった最上・真室川といった地域よりは一段南、そしてもう少し西にあり、かの出羽三山(月山、湯殿山、羽黒山)を臨む地と言えば通りが良いでしょうか。
 つまり、登山せずとも相当山がちな土地。至る所で雄大かつ険しい景色を眺めることができます。
 立ち込める霧と雨の中訪ねたのは、いかにも巨樹がありそうな土地柄にふさわしい、驚くほど巨大な栗の巨樹。
 「大井沢の大栗」でした。

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 まずは座敷なのに柱に燕が巣を作ってるようなボロい鄙びた民宿で山ほど山菜が入った蕎麦を食べたり、早くもファンヒーターに当たったりした後、月山湖を望みつつ県道27号を南下。大井沢の集落で目印を見つけ、林道へ。
 目印の看板には堂々と「日本一の大栗」と書いてあるわけですが、本当かどうかは自分の目で見て確かめるしかない。

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 林道は、概ねこんな感じの舗装〜未舗装路を2.3キロほど。
 道としてはよく締まっており、特に怖いことはありませんが、周囲は鬱蒼として山の気が濃密に立ち込めます。

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 途中、キジが前を横切ったりしましたが、クマーさんに出会すことはなく、駐車場のような扱いの広場に到着しました。
 雨が降っていましたが、カッパを着込むほどではない。
 そこからは100メートルほどか、標識の指す方向に向けて歩くことになりました。

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 森はけっこう深いし、やっぱりここでクマサンに出会うのだけは嫌だなと思って坂道を登って行きますが……ふと振り仰いだ時、はっきりと自己主張する巨樹に目が止まりました。
 県指定の天然記念物「大井沢の大栗」。
 ……えっ、これが本当に栗か? と疑ってしまうほどの太さに目を奪われます。

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 正直なところ、「日本一の栗の巨樹」というトロフィーに釣られて見に来たわけではないのです。
 「日本一!」と謳っている巨樹はどれがホンモノかわからないくらいあるし、そのような状態にももう慣れっこ。
 先の林道の入り口にあった「日本一の」という看板を見た時も、そこまで興奮しませんでしたが……実物を見ると、確かにこれは! と思わせるものがあります。

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 栗は、元来そこまで大きく育つ樹種ではありません。順調に育っても杉みたいに幹周10メートル・樹高50メートルなんかになりはしない。
 しかも、生長が早く、材は重厚で硬い。おまけによく燃える。こんな有用な性質を樹の民・日本人が放っておくわけはなく、多くの栗が伐られてきました。
 かつては鉄道の枕木や炭焼きにも使われたということだし、どれだけたくさんの栗が生えてたんだと感心半分、環境の変化に絶望半分。
 現在では、材木としての栗はかなりの高級材料ですから……。

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 そしてもちろん、栗といえば美味しい秋の味覚。そこでも、何て恵みの多い樹なのだろうと感心します。
 桃栗三年柿八年……というのは、種子を植えてから収穫できるまでの年月を言い、栗の成長の早さがうかがえます。
 この大栗の場合は、「シバグリ」という、各種栽培種の原種にあたる野生のクリ。
 落ちていた実を見てもわかる通り、かなり小さく、まるでどんぐりの一種のようです。食べてもそこまで美味しくはなさそうで、残念。

 ちなみに、丹波栗をはじめとして有名なクリがありますが、各県のクリの収穫量を調べてみたところ、1位はダントツで茨城県なのでした。
 これは意外……隣接する千葉県も農業王国ですが、その10倍もの量(5180トン・年)を生産しています。

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 この大栗の場合、古来から巨樹である認知がされていたようで、そのために伐られることはなかった。
 数百年かかって巨樹になったとしても、伐られるとなると一瞬です。自然に対する価値の置き方というものがいかに重大で責任を孕むものであるか、考えさせられます。

 しかし、とにかく、山に入る地元の方々のおかげで、この巨樹は残ったわけです。
 この先、気候変動などで影響を与えてしまうのは避けられないにせよ、浅はかな損得勘定で伐り倒されてしまうことだけは避けられる。
 この日、この樹に出会うことができたことに感謝しなければと思いました。

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 実に逞しい。
 目通り幹周囲はクリにあるまじき8.5メートルという太さですが、誇張は何も感じません。
 クリでここまで大きくなるということが普通ではまず考えられない。その点だけでも、この樹を「日本一」と呼ぶことに違和感を感じない。そう思います。

 ただでさえ大きいと感じる体躯に、クリという樹種の個性が加わる。硬く重いという比重感が、やはり杉などとは全然違った雰囲気をもたらします。
 樹皮はごつごつとして陰影を生みやすいし、枝は長く伸びてうねっている。ともすればクリはおどろおどろしい見た目になりがちですが、この樹の場合はとても大らかに感じるところがあります。
 時期的にそろそろ色が変わって落葉する……という準備段階だったかもしれませんが、黄緑色の広葉の茂りは視界をとても明るくしてくれました。

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 ヒューマンスケールをどうぞ。
 高さはありませんが、ずっしりした幹の太さ、枝張りの意外な大きさ(とアンバランスさ)がわかっていただけるかと思います。

 本当に、親しみが湧くような、逞しくも暖かい樹です。
 「大きな栗の木の下で」なんて、こういうところで楽しく歌う歌だったんだろうな……なんて思いました。
 思えば、大きな栗の木の下なんて、入ったことがなかった。自分の幼少期には、栗の木は、すでにそう多いものではなくなっていたということでしょう。
 ああ、こういうことか……と、しみじみ。とても居心地が良かったです。

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 解説文。
 「巨樹・巨木林の会」によって計測がなされ、晴れて日本一の幹周囲を誇る大栗であることが実証された旨が書かれています。
 計測も新しいですし、これは正しい数値として認識して良いのでしょう。
 山中ですが、こうしてきちんとした解説と木道があれば、皆、対し方を改めるでしょう。実は大切なことです。
 (木道が雨でとても滑りやすく、案外撮影の自由が利かなかったですが……笑)

 「透水性と通気性に富む土壌」ともありますが、そう、すごく岩石質な土地でした。
 林道にも頁岩状に砕けて剥がれた石がたくさん散らばっていて、車を揺らします。落石があるのかもしれません。
 目が粗いので、きっと水をよく通し、綺麗な流れを作っているのでしょう。


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 豊かな東北の自然の代表者に会ったような印象。クマへの恐れもどこへやら、気づけば雨中に1時間あまりもそばにいました。
 道を下ってきてふと振り返ると、ああ、はっきりと大栗が見える。本当に大きな栗の樹だな。
 木立の間から、また来いよー、と呼びかけてくれているようにも見えました。


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「大井沢の大栗」
 山形県西川町大井沢
 樹齢:800年
 樹種:シバグリ
 樹高:16メートル
 幹周:8.5メートル

4コメント

RYO-JI  

クリの巨樹に関して自身の無知をさらけ出すようでお恥ずかしいですが、
こんなにも大きなヤツが存在していただなんて驚きでした!
日本一といってもクリなんだからせいぜい5~6mくらいかなぁと(それでも充分立派)思いこんでいましたが、
このクリの写真を拝見し続けるうちに、これ本当にクリか?と疑うくらいに驚きました。
いや、本当に凄い存在感ですね!!
クリの巨樹という見慣れない(というかまだ見たことない)モノに対して完全に気圧されたような気持ちになってます。

2019/11/26 (Tue) 21:44 | EDIT | REPLY |   

to-fu  

8.5m!!!
例のカレンダーの栗も立派でしたがこれはもう規格外ですね。
栗の巨樹は今年重点的に見てきましたがほとんどが5m台で大きいものでも6m台、
7m以上ともなるともうランカークラスという印象でしたが、まさかの8mとは。
ぶっちゃけ今年の夏長野で見た数本の巨栗の実物よりも、この写真の方に興奮してしまったくらいです 笑

立地が影響しているのか、これはもう栗という次元を通り越してトチの巨樹のような
威圧感がありますね。樹皮や枝張りなんか見てもパッと見はもうトチですよこれ。
いやー…是非とも実物を見てみたいですね。早速マップにチェックしておきました。

2019/11/26 (Tue) 22:32 | EDIT | REPLY |   
狛

狛  

RYO-JIさん>
いやあ、僕も関東の海っペリにいたら、栗の巨樹には出会えず仕舞いでしたよ。
茨城がそんなに山ほど栗を生産してるとも知りませんでした。
樹種の常識があるので、そこまで巨樹としての驚きを期待しないことにしているのも確か。
僕としても、5メートルもあれば大栗と呼べるという認識でしたが、えっ、8メートル? これは自分の目で確かめねば! となった次第です。
栗の木って、樹皮や葉も含め、たたずまいがいいですね。
日本人のDNAなのか、懐かしいような、ほっとしたような恵まれた気持ちになってくるから不思議です。

2019/11/27 (Wed) 09:11 | EDIT | REPLY |   
狛

狛  

to-fuさん>
栗の木に大きさや迫力を求めても……というところですが、この巨樹は見応え十分でした。
巨樹の貫禄もかなりあって、静かな山の空気とともに、気づけば1時間……という体験をさせてくれました。
もちろん、日本一を見たからあとはもういいということはなくて、栗の巨樹たちに対する興味がかなり高まりました。

確かにトチのような質感がありますね。迫力もありつつ、広葉樹の巨樹というのは、どうしてこう暖かいんだろう。
仙台からも確か2.5時間くらいかかるんですが、山の恵みも豊富だし、楽しいところですよ。
ぜひまた会いに行きたいと思っています。

2019/11/27 (Wed) 09:31 | EDIT | REPLY |   

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