巨樹を訪ねる 高坂の大カツラ

yamagata1962.jpg
K-1 mark2 / HD PENTAX-D FA 28-105mmF3.5-5.6ED DC WR

 山形県の最北辺をなす真室川町。ここを抜ければもはや秋田県です。
 最上・真室川方面にはデータを見ているだけで居ても立っても居られなくなるような巨樹が多数存在しているのですが、山の深さは尋常ではない。
 装備も考えもなくレクリエーション気分で踏み込むべきではないな……とバツ印をつけていくことになります。

 けれども、見たい。なんとかこのゾーンに取っ掛かりを見つけておきたい。手ぶらで帰りたくない。
 そういう自分にはありがたい立地、そして何よりインパクト十二分な大カツラがありました。
 「高坂(たかさか)の大カツラ」です。

yamagata1963.jpg

 この地域には巨大なカツラが多数存在している。余さず見たい。
 けれども、多くは登山か探検をせねばたどり着けません。
 冗談で言っているのではなく、冬はスキーがないとダメだし、他の季節はハチ、アブ、ヒル、クマ、マムシと、強敵が待ち構えています。
 ルートがわからず、斜面から滑落する危険もありうる。

 そこへ行くと、「高坂のカツラ」へ行くのはなんとちょろいことでしょうか。
 地名通り「高坂ダム」を目指し、標識に従って林道に進めば良い。この林道も、少なくともカツラまではちゃんと舗装されたおもてなし林道。
 入口からわずか数十メートルの地点で、写真のような標識があります。
 おわかりでしょうか、斜め上を向いていますね。

yamagata1956.jpg

 矢印の指す崖上を仰ぎ見た瞬間、衝撃が走ります。
 この異物感!
 明らかに存在感が違う何かがそこにある……例えるなら、山中で不時着した地球外生命体の宇宙船を発見したかのような。自分で言っていてわけがわかりませんが。
 駆け寄って観察を試みます。

yamagata1957.jpg

 い、いやー、これは……なんて樹だろうか!
 写真で伝達が難しいのはわかっていて文章で書きますが、おそろしい巨大さです。
 株立ちのカツラであることはわかっています。が、塊としても、その存在はあまりにも大きすぎる。
 これだけの木々の中にありながら、全く埋もれることもない。「樹を隠すには森」と言いますが、全く隠しようもない。

 しかし、じたばた間近まで行っても、それは崖下まで。高さにしておよそ7、8メートルはあろうかというほぼ垂直に見える斜面が立ちはだかります。
 行くのはちょろいと書きましたが、ここまでか……ここで見て終わりなのか。いけずな桂なのか?
 そう思った時、ふと、土で汚れて目立たない……え? トラロープ?
 目で追うと、カツラのすぐ隣の別種の樹にそれが縛りつけられているのがわかりました。
 つまり……それはつまり?


Pasted Graphic 2

 泣いたり笑ったりだな、おい。
 そんな感じで、以前の回でご紹介したような展開となったわけです。

 いや、これは危ない。
 誰がいつ設置したか、劣化したロープがブチッと行くかもしれないし、すると真っ逆さま、命に関わります。
 自己責任なのは当たり前ですが、決しておすすめしません!
 これを読んでチャレンジして怪我されても、自分は決して責任を取らないことを宣言しておきますよ。

Pasted Graphic 3

 体力が要ることは言うまでもありませんが、カツラのそばに登っても、急斜面で狭く、まともに立つのも難しい。
 この季節でも藪があり、どこを踏めるのかよくわかりません。
 結局、自由に動き回ることは難しかったです。

yamagata1958.jpg

 同じレベルに立ってかっちりした全体像をとらえることはできません。
 この距離では、カツラはまるでビルのように巨大すぎ、自分が何のどこを撮っているのかまるでわかりません。
 というか、別の枝やらカツラ自体に抱きついていないと危ないので、ノールックでとにかくシャッターを切ってたというのが実際か……。

yamagata1959.jpg

 ひこばえが林立し、全貌がはっきりと捉えがたいですが、大きく分けて2、3の巨大な株が合体しているのではないでしょうか。
 横方向に広がった印象が強く、アンバランスにタテに伸びていくカツラにしては樹高はそれほどない。
 何より、白骨化した箇所が多い樹皮の状態から、そこそこ高齢なのではないかと想像します。
 葉もあまり多くはなく、黄葉にも半端な時期なので、あの甘い香りもほとんどしませんでした。

 とても実測などできる状況・形状ではないですが、記録によれば幹周囲は16.3メートルを超える。
 株立ちになることによりとんでもない数値を叩き出すカツラの巨樹の中でも、少なくとも全国5位には入る大きさと言えるそうです。
 20メートルを超え、日本一とされる「権現山の大カツラ」も最上にある通り、この周辺にはカツラの巨樹がとにかくたくさんあるとのこと。

yamagata1960.jpg

 厳しい自然があればあるほど巨大化する印象のカツラ。
 巨樹のもとでよく見るように、派手に折れた大枝が転がっていました。
 長大で、並の樹木の幹ほども太さがある。
 それでも本体としては、それがどうかしたか? 代わりはいくらでもあるぞ、と無造作に立っているように見えます。

 さて……どうしたものか。
 他に何ができるのか……。 

yamagata1955.jpg

 ということで、一度降り、また登って、かろうじてヒューマンスケールです!
 僕がどこにいるかわかりますか。笑
 これが一番太く見える角度かというと怪しいのですが、藪と雑木が深いのと、カメラ位置を何回も変えられないので、これで。
 
 ものの本によれば、この樹は当然ずっとここにあったのに、そして奥にダムも開発されたと言うのに、長年誰も見向きもしなかった樹だったということです。
 この山深い最上や真室で次々常識破りな巨樹が発見されるブームみたいなものがあった時、ダムの所長さんが「そういえば入口にあるのもデカいぞ」と初めて気にしたそうで。
 測ってみたら、そんな全国有数の大きさ。所長さんは嬉しくなって自分であの斜めを指す標識を建てたとか。


 カツラを満足に眺められない関東人に、この北部山形の野生剥き出しの巨大カツラは刺激的すぎました。
 なんじゃこりゃあ、しかも天然記念物指定ナシかよ、無造作すぎる! ……と、つい資料本(古本)を取り寄せたんですが、それによれば、50メートルほど戻って斜めにアプローチすると、崖登りをしなくても近づけるそうです。
 ということは、そっちからなら全体像をある程度近くから撮れるかも。
 次回はそれだな……と思いつつ、こんなことが続くなら、本気でヘルメットも買った方がいいんじゃないかと考え始める始末。
 最上・真室の自然と巨樹は、人をいけない方向に導く危ない魅力を持っています。
 入口に立っただけではっきりわかる。
 とにかく、濃く、深い。


yamagata1961.jpg

「高坂の大カツラ」
 山形県真室川町 高坂ダム入口
 樹齢:不明
 樹種:カツラ
 樹高:20メートル
 幹周:16.3メートル

4コメント

RYO-JI  

関西人にとって東北は最も遠いと感じるエリアなので無知を晒してしまいますが、
カツラのイメージがあまりなかったので驚きました。
このサイズはもう全国レベルのカツラですね!
矢印に導かれるように視線を移し・・・目にしたカツラの異物感。
いやー、そんな感覚なら何度でも味わいたいですよね(笑)。
そしてこれまでに見たカツラの巨樹の周辺環境とは違ったように見えて面白いなぁと。

2019/11/15 (Fri) 00:03 | EDIT | REPLY |   

to-fu  

同じく東北はほぼノーマークなので、あのクライミングはきっとトチノキではないか
なんて思ってたんですが、まさかのカツラだったとは。
これだけの藪の中で育ちながらも非常に綺麗なカツラですね。もっと苔や蔓に覆われたり
幹もボロボロになったりしそうなものですが、荒々しくもどこか気品が感じられます。

こちらにもまだまだ未訪問のカツラがあるんですけど、やはり藪漕ぎスキル必須な場所
ばかりなんですよねえ。本当にヘルメットやナタが必要になってきそうで…一体何やってるんでしょうね。

2019/11/15 (Fri) 10:13 | EDIT | REPLY |   
狛

狛  

RYO-JIさん>
日本地図を広げてみると、ものすごい隔たりを実感しますね。
って、僕自身、もうほぼ秋田まで来てんのか!? と驚きますが……。
カツラは北海道にも勢力があるし、なんて強い樹種なんだろうと感心します。
おっしゃる通りで、ここは直接沢があるわけではないんですが、最上の方は霧と雨量がすごいらしく(もちろん雪も)、それで大きく育つのかもしれません。
伝えにくい巨樹ですが、ものすごい巨大さでしたよ。
他のカツラにもぜひチャレンジしたい……けど、深いなあ。と。汗

2019/11/15 (Fri) 23:26 | EDIT | REPLY |   
狛

狛  

to-fuさん>
ああー、トチでもこういう目に遭いそうですよね。
東北の広さはものすごく、冬は閉ざされてしまうので、果たしてどこまで行けるのか!? というところですが、東国担当として頑張ろうと(いつの間にか担当になってる)。笑
カツラとして理想的なスタイリングではないですが、厳しい環境で長年生きてきた凄みを感じさせてくれます。
ぜひもう一度行って、もうちょっと全体像を把握したいです。

東北のこの辺までくると、ヘルメットやナタやロープを所持していても、何の咎めも受けなさそう。
あとは車の横っ腹に「環境省」とでも入れましょうかね。それはダメだ!笑

2019/11/15 (Fri) 23:34 | EDIT | REPLY |   

コメント投稿