巨樹を訪ねる 岡の宮の大クス

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K-1 mark2 / HD PENTAX-D FA 28-105mmF3.5-5.6ED DC WR

 四国の秘境を巡る巨樹探訪から一転、徐々に日常生活へと戻っていくかのような道のりを辿っています。
 徳島市までもあと2、30キロ、だいぶ市街地も増えてきました。
 板野町には高速道路のICもあるし、高徳線の駅もある。
 駅からみて北西の方向、岡の上の見晴らしの良い分譲地といった感じの住宅地の中に、この旅最後の訪問先となる大クスがありました。
 その名も「岡の宮の大クス」です。

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 県指定の天然記念物であり、上記したように人眼によく触れる場所にあるので、見つからないということはまずありません。
 行けば、必ず会える。
 しかしながらひとつ書いておかねばならないのは、所在が「岡上神社」だからといって、巨樹が丘の上にあるとは限らないということです。
 いや、さらにわかりづらいのは、神社自体はその名の通り丘の上にあるということです。
 ああ、たどり着いた! とぬか喜びすると、巨樹に至るまでに長い石段の上り下りが待っています。

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 体験した通りに書き出すとそんな感じですが、要は、神社の境内が斜面に跨っているということですね。
 下の鳥居から、急な石段を登って、本殿にお詣りする。
 一度裏手(丘の上)に行ってしまった身からすると、石段を往復し、駐車スペースを探して車を移動し……ということで、なかなかの汗をかきました。

 神社の正面(丘の下)から正しくアプローチすれば、大クスにはすぐに会うことができます。
 もはや隠しようもない。というか、クスに隠れて神社が見えない。

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 「岡の宮の大クス」です。奥に神社へ続く石段も見えますね。
 幹周囲17メートルを超えるということですが、こちらははっきりした株立ち。
 しかし、資料写真などからも樹勢の良さが伺い知れ、さらに先立って訪問されたto-fuさんがこのクスを絶賛されていたこともあり、是非見に行こうとリストに加えました。

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 お百度をやったらガチガチのアスリートになれそうな石段を少し登れば、ぐるりと全方位から観察できます。
 4本にも5本にも見える太い幹が林立していますが、元をたどっていくと3本となるようですね。
 一番太い幹(一番外側に傾斜した幹か?)の目通り幹周は7メートルに近いらしい。その他も負けじと太いです。
 このような巨樹の場合の測定法としては、束として測るわけではなく、それぞれ測った数値の和とされています。
 5メートルから7メートルのもの3本で、だいたい17メートルオーバー。納得です。

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 根元のレベルでは完全に合体してしまっている。
 太い幹それぞれを支えるために一致団結しているようにも見えます。
 巨大なタコが吸い付いているようにも見え、クスという樹種の成長力の旺盛さと柔軟さが感じられます。

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 大枝は長大で、境内前の広場をほとんど覆い隠してしまうほど。
 鮮やかな緑が目に眩しく、清々しい。

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 樹齢は700年ということですが、もっと若いんじゃないかな? と個人的には思います。
 いや、根の癒着具合を見るとそれで妥当だとも思えるのですが……このクスは活きがすごくいい。

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 この旅でも何本もクスを見ましたが、一番いきいきとしていたのはこのクスなんじゃないか? と思います。
 ノキシノブなどの着生植物も、この場合、自然のものの眺めとして生命感を高めていると感じました。

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 日が高くなり、ただでさえ石段を無駄に往復して汗まみれでしたが、クスの木陰というのは本当に涼しい。
 葉がさらさら鳴る音も、確実に体感温度を下げるのに一役買ってくれます。
 いつまでもそこに居たいような居心地の良さでした。
 ここまで茂っているのに、薄暗くならないんですよね。
 これがシイの木陰だったら、もう全く印象は違うでしょうね。笑

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 解説文。
 枝張りは南北方向に約40メートル近くある。とても立派な樹幹です。
 単独の幹ではないがゆえに、無理がなく支え切れているのかもしれません。

 江戸時代に、造船の材料として伐られそうになったが、氏子が必死に守り通したという話が書かれています。
 巨樹を巡っているとたまに同様のエピソードに出会いますが、さぞ苦難だったでしょう。
 おかげで今こうして巨樹を見ることができると思うと、その人たちの思い入れ分も、じっくりとこの幸福を味わって帰らねばと思います。

 幕府が造船する、しかも安宅お目付とあるので、軍船である「安宅船」を作るとして求められたのかもしれません。
 時代はちょっと遡りますが、徳川は寛永11年(1634年)に安宅丸という巨大な軍艦を作っており、これが廃船になった際、解体された材は家屋用などに下ろされたらしいです。
 ところが、材木として使ってみると、夜な夜な変な声や音を立て、しまいにはとすすり泣き始めたとか。
 クスは古来から造船に用いられる樹種。
 もしかすると、日本各地の霊力ある御神木が伐られて使われていたからかもしれませんね。


 大型台風で欠航かもと危ぶまれたフェリーも、どうやら遅れて動くとの連絡が入りました。
 もしかすると時間が余るかも……と思っていましたが、この樹をラストに港へ向かうことになりました。
 街中にこんな大クスがあるなんて……きっとまた来る、来ないわけにはいかない。
 そう徳島、四国を後にしたのでした。


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「岡の宮の大クス」
 徳島県板野郡板野町大寺 岡上神社
 樹齢:700年
 樹種:クス
 樹高:35メートル
 幹周:17.7メートル

4コメント

to-fu  

事前に調べた情報からも複数本の合体樹だと分かっていたので、正直なところ
そこまで期待値は高くなかったのですが、文句無しに素晴らしい樹でした。
境内はきっとこのクスのために作られたのではないか。住民が巨樹に寄り添って
巨樹もまた人間を身近なものとして受け入れているのが伝わってくる。
こういう巨樹と出会えると、スペックや理屈抜きに冥利に尽きるものがあります。

すぐ近所に巨木?巨樹?くらいのクスが生えていて通りかかる度に眺めては穏やかな
気持ちになっていたんですが、最近邪魔だからと切り倒されてしまったんですね。
徳島でああやって人の暮らしの中に溶け込むランカークラスのクスを見るに、
巨樹の人生としてもあそこまで幸せなものは早々ないのではないかと思うのです。
幸せに生きる巨樹を眺めるという行為は、人間にとっても幸せなことです。

2019/10/11 (Fri) 20:25 | EDIT | REPLY |   

RYO-JI  

今回の旅では時間的に余裕がなかったのであの二日間に回る予定だった巨樹以外は調査せずに乗り込んだ訳ですが、
やっぱりスゴイですねぇ、徳島県は。
むしろ事前に狛さんが選定してくれてて助かりました。
自分だったら選びきれないくらい見たい巨樹ばかりだったかと。
このクスもそんな外せない存在だったと思います。

もともと見れば元気をもらえるタイプの樹種ですが、これは生命力が際立っていますね。
一目見れば疲れも吹っ飛びそうなほどで、確実に癒し効果があると確信できますよ。
それこそ巨樹に興味がない人にもわかるくらいじゃないかと。

2019/10/11 (Fri) 21:25 | EDIT | REPLY |   
狛

狛  

to-fuさん>
単幹で巨大に生育していることの珍しさというのは確かにありますが、大きく育って長く生きるという点では、こうした格好の方が理にかなっているはずです。
やりたいように育っている感じがあって、この大クスの元気な姿は清々しかったですね。

案外市街地にもかかわらず、広場を覆い隠すようなこんな規模の大きい大クスが育っている。
素晴らしい風景だと思いました。
周辺の方々の記憶にもしっかりと焼き付き、なくてはならないものとして残っているに違いないです。
佐原の駅前にはトチの街路樹がありましたが、これも葉が落ちるのがどうとかで全部伐られてしまいました。
あの葉っぱが好きだったのに……と母が嘆いていましたが、そういう話を聞くたび、一体何が大切なことなのだろう? と悩みます。
巨樹の存在こそ、それを問いかけてきているものなのだと思います。

2019/10/12 (Sat) 09:43 | EDIT | REPLY |   
狛

狛  

RYO-JIさん>
僕もあれ以上に欲張る気はなくて、それこそあのツアーで巨樹は満足するだろうから、あとは観光やスナップの枚数が増えたらいいなあ……程度に考えていた最終日でした。
1箇所くらいは回れるかなと思ったらフェリーが遅延。土壇場で調べて行ってみた感じです。
その帰り道上でも、これだけ印象に残る巨樹に出会えますからね。ほんと恵まれた土地です。
ツアーのリストアップはあれです、自分が見たいものばかりで恐縮です。汗

徐々に合体しつつ、1本1本も太いんですよ。総体としてかなりの見応えがありました。
ここまで来ると、ある程度長時間使って真剣に写真に撮っていても、通行の方々に不審がられることはないですね。
お散歩やお詣りの方も来ましたが、皆さんどこか視線が誇らしげだったように思います。
ほんと、蚊がいなければずっと木陰にいたと思います。笑

2019/10/12 (Sat) 09:53 | EDIT | REPLY |   

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