巨樹を訪ねる 尾開のクロガネモチ

IMGP8008.jpg
K-1 mark2 / HD PENTAX-D FA 28-105mmF3.5-5.6ED DC WR

 メインの巨樹ツアーも事故なく終わってほっとしましたが、帰りのフェリーの時間が午後なので、それまで時間があります。
 美馬市から徳島市へと戻るわけですが、ただ戻るだけでは芸がありません。
 徳島市で時間まで街撮りでもするというアイデアも当初はありましたが、徳島市はつまら……前日からの巨樹探訪の熱冷めやらず、道中にある巨樹を見ていくことにしました。

 とはいえ、もはや山には登りません。平野の巨樹です。
 美馬の道の駅から比較的近かったこともありますが、朝のうち、まずはじめにこの樹に寄ることにしました。
 「尾開(おばり)のクロガネモチ」です。

IMGP7999.jpg

 所在地を定め、走っていくと、長閑な田園地帯に連れていかれます。
 もうあんな険しい道を走ることもないのだな、と油断していたら、生まれつきアホなところがあるナビの誘いが田んぼの畦を走れとグイグイ主張してきたり、まあ、そういうこともありつつ。

 目的のクロガネモチの姿は孤立しており、それより大きな樹も見当たりません。
 近くまでくれば、視界に捉えるのは容易だと思います。

IMGP8013.jpg

 先にお断りしておくと、リサーチの段階から、この樹がそれほど大きいものではないことを知っています。
 ここまでの四国巨樹ツアーの面々を見てしまうと、なおさらただの木に見えてしまいそうです。

IMGP8005.jpg

 近づいていくと、枝張りはなかなかの広さがあり、影の中に入る感じになります。
 幹姿はこんな感じ。

 目通り高さでの測定で幹周囲が3メートルあれば、どんな樹であっても「巨樹」と呼ぶことができる。そう定義されています。
 幹周囲3メートルの杉や楠なんてありきたりすぎて見る気がしませんが、逆に、本来そこまで大きく育つはずのない樹種のもので、例外的に3メートルを超える大きさに育って巨樹と呼ばれるに至ったものもあります。
 例えばツバキ、モミジ、ヒイラギなどが幹周囲3メートルを超えてくる。これはかなり珍しい。
 このクロガネモチという樹種もその部類で、このように「巨樹」化することは異例。
 リストにもほぼ登場がない樹種ですから、もしかすると日本最大の個体であるかもしれません。

IMGP8007.jpg

 節や割れのない樹皮をしています。
 クロガネモチという樹種に注目したことも、正直今までありませんでした。
 モチノキの仲間で常緑樹、主に庭木として植えられるそうです。
 というのも、クロガネモチ……クローガネーモチ……「苦労がなく金持ち」という縁起物なので!!

 ……こんなことを思いついたのは僕じゃなく、昔の人ですからね。
 言ってみて、なんかちょっと恥ずかしい思いをしましたが。

IMGP8004.jpg

 葉っぱはこんな感じで、つやつやしています。
 時期になると、真っ赤な実がつくので、緑と赤の対比が綺麗でしょうね。
 この感じは、さすがに園芸種というところ。

IMGP8034.jpg

 つぼみをたくさんつけていました。
 薄紫色のちまちました花が6月頃に開花するようです。

IMGP8024.jpg

 いやしかし……この幹や大枝を見ると、到底園芸種とは呼べない逞しさですね。
 垣根や庭木には誰も登ろうとは思わないでしょうが、この樹ではそれが十分可能です(天然記念物なので登ってはダメですが)。
 成長は遅く、材としても丈夫なようで、鍬などの柄に使われた例もあるようです。
 いかにも粘り強そうです。

IMGP8030.jpg

 傷んでいるところが特になく、葉の質もあってか、色艶良い印象を与えてくれます。
 もともと耐環境性が強い樹種とのこと、この先も長生きして、クロガネモチという樹種の限界まで大きくなっていくのではないでしょうか。

IMGP8023.jpg

 天然記念物碑。
 すぐ隣には地蔵堂があって、ちょっとした四阿のようにもなっています。
 周りに何もないところなので、散歩の途中でここで休んでいく人もいるかもしれません。

IMGP8006.jpg

 解説板。
 ここでは樹齢600年とありますが、上の石碑には300年とあり、倍も違うのですが……。笑
 あまり根拠はありませんが、さすがに600年は言い過ぎか……300年の方が妥当だと感じます。
 一方で、寸法を計測した年を記してあるのはいいですね! 珍しい。
 柵に囲まれて手ずから測ることはできませんでしたが、それから40年経つと……と、思いを馳せることはできます。
 見た感じ、4メートルまではなさそうです。
 本当に成長が遅いのだな……杉とは大違いです。 

IMGP8038.jpg

 というわけで。
 最近、それなりに多くの巨樹を見てきたせいもあるのか、まだ見ぬ樹種に心惹かれることもあります。
 巨樹こそはその樹種の代表者という側面も持っているのではないかと僕は思うのです。
 その樹種のことを、ある意味余計に強調して、巨樹が教えてくれるのではないかと。
 そして、冷静に考えてみれば、大きくなるはずのないものが大きくなっているという事実は、もしかしたら巨大な杉や楠にも増して貴重なのかもしれません。
 気持ちがぞわぞわするとか、もう一度是が非でも見にくる! というような種類の探訪ではありませんが、知識・知見を増すという、探訪本来の目的からすれば有益な一本だったと思います。

 のんびりした美しい風景が広がっている一方、農家の方々がずっと忙しく作業に励んでおられたのが印象的でした。
 朝はちょっと寒かったんですが、徐々に気温も上がってくる模様。
 車に乗り込み、クロガネモチの立ち姿を見ながら出発しました。


IMGP8016-2.jpg

「尾開のクロガネモチ」
 徳島県阿波市市場町尾開日吉
 樹齢:300年
 樹種:クロガネモチ
 樹高:21メートル
 幹周:3メートル

4コメント

to-fu  

このクロガネモチは僕が野神の大センダンの後で見に行こうか悩みながらも、
惜しくも空腹に負けてスルーしてしまった巨樹ではありませんか!
お世辞にも大きいとはいえないセンダンを見た後だったので気分を切り替える
意味も込めて、次はとにかくデカいのを見よう!と決断したわけですが、
これはなかなかの枝ぶりで見事な立ち姿ですね。肥沃な徳島らしく健康的だし。
思考停止するほどのクス・ラッシュを浴びるくらいならこういう樹種を挟むべきでした…流石です。

クロガネモチやオガタマノキ、ナギなんかも巨樹というより名木カテゴリーに
なりそうなものが多いんですけど、小ぶりでもしっかり見どころがありますよね。

有無を言わさぬ圧倒的なサイズが巨樹の醍醐味であることは間違いありません。
でも決してそれだけではなくて、初期ならスルーしていたような樹種でも
見れば見るほど新たな発見がある、そんな奥深さがあるから飽きないんですよねえ。

2019/09/25 (Wed) 21:43 | EDIT | REPLY |   

狛  

to-fuさん>
さすがto-fuさん、この樹もご存じでしたか!
センダン自体もどちらかというとこれに近い立場でしたが、こういった樹種の巨樹は価値の置き方がどこにあるかを問われますね。
巨樹の醍醐味はやはり並外れた存在感にあり、それが感じられないと達成感・感動不足に陥るんですが、そればかりでも消化不良になる。
人間の感覚や感性ってやっぱりキャパが限られているんだなあと思いますよね。

オガタマノキは生えているところを見たことがないし、ナギもそれメインで訪ねたことがない。
この間ケンポナシを見ましたが、これって特別な樹なの? って思ってしまう見た目をしている。笑
しかし、そこで思考を中断してよく見ないというのはもったいないぞと、こういう樹たちが言っている気がしますね。

樹の文化というのは本当に日本に根強く、そのことを理解していると、いろんな樹種を理解していることはとても価値のあることだなと思います。

2019/09/26 (Thu) 11:40 | EDIT | REPLY |   

RYO-JI  

遠景からの孤立した姿がいいですね!
樹勢が旺盛なようで幹周以上に全体が大きく見えて目を引きますよ。

そして「苦労がなく金持ち」・・・いやぁそれだけで見に行きたくなります(笑)。
昔の人がそのように例えるくらい縁起が良いうんぬんは別にしても、
成長が遅いクロガネモチの巨樹というのはかなり貴重なんじゃないですか。
県天に指定されていることからもただの巨樹では無さそうで。
サイズや存在感で圧倒される巨樹の魅力は言うまでもありませんが、
こういうシブイ巨樹と心落ち着けてゆっくり対峙するのもいいものですよね。
しかもあんな二日間の後だと尚更。
フルコースのフレンチを食べまくった後に、出汁の効いた味噌汁の旨さをしみじみ味わうみたいな(笑)。

2019/09/26 (Thu) 21:27 | EDIT | REPLY |   

狛  

RYO-JIさん>
「苦労がなく金持ち」という悪魔的フレーズに痺れますね。
まさかそんな意味での縁起物だとは。

うまい比喩ですね! そう、箸休めというよりは、渋い旨味を感じられる食べ物という感じです。
写真編集しながらじっくり枝や幹の作りを見てみると、かなり太くてみっしりした感じがあり、巨樹と呼べるの? なんて思っていた気持ちがなくなりました。この貫禄はまさしく永く生きた巨樹が放つものですね。
モチノキの仲間というものも記憶にとどめることができ、そしてまたわかりやすい巨樹であるクスの元へと向かうのでした。笑

2019/09/27 (Fri) 16:59 | EDIT | REPLY |   

コメント投稿