巨樹を訪ねる 松保の大スギ

yamagata1927.jpg
K-1 mark2 / HD PENTAX-D FA 28-105mmF3.5-5.6ED DC WR

 四国の巨樹のまとめも実はまだ終わりではないんですが、この巨樹との出会いがあまりにも衝撃的すぎ、感動が鮮やかなうちに記録してしまいたい! と思いました。

 山形県大江町の山中にある、「松保の大スギ」。
 山形県では最大の幹周囲を誇る大杉です。
 遠景からも驚くべきスケールの大きさが伝わり、声を上げずにはいられませんでした。

yamagata1932.jpg

 仙台から片道2時間半。
 大江町は、山形県のほぼ真ん中、寒河江市の西側に位置する町で、ほぼ全てが山地です。
 真ん中に県道27号が貫いているほかは、そこから枝分かれする道はすぐに狭小になり、その先は林道直結といった印象です。

 この杉へと至る道もその典型で、県指定記念物と書かれた矢印看板を頼りに曲がって即すれ違えない幅の道、少し行けば未舗装路、そしてそこを……8キロ走らねばなりません。
 大雑把な風景としては別の記事によるものとしてここでは省略しますが、序盤はともかく後半の荒れ具合はなかなかのもので、訪問者は度胸を試されます。

 しかし、30分にも及ぶ林道ドライブの末に現れる大杉は見誤りようもない。
 一樹これすなわち森というようなこの姿が見えた瞬間、かなりの達成感が押し寄せてきました。

yamagata1928.jpg
 
 有名な樹ではあるので、調べれば写真やデータは出てくる。
 大きさの想像はそこそこできていたわけですが、自分の視界に実物を捉えると、その規模の大きさに度肝を抜かれます。
 この、比較対象がそばに無いにも関わらず伝わってくる大きさ、迫力というのは、あるレベルを超えた巨樹のみが持つものであろうと思います。
 来たな……そう身構える感じ。

yamagata1912.jpg

 そうして、最初の写真の眺めがあるわけですが、こんもりとした緑の茂りの間から幹が覗いた瞬間の衝撃は忘れられません。
 ズームしてみれば隣のお堂との比較ができるわけですが……でかい! を通り越して、なんだあれ!? とわけがわからなくなります。
 正直、ブルっときました。

yamagata1913.jpg

 一心に撮りながら移動。
 近づくにつれ、背筋がゾワゾワとしてきます。
 あっという間に樹冠の薄暗い影に飲み込まれます。
 根元にはカヤが茂っていたり、大きなジョロウグモがピアノ線みたいな糸を張っていたりしますが、負けずに突進。

yamagata1914.jpg

 もちろん、巨大な幹はもう覆い隠しようもありません。
 が、しばらく茫然となったのちは、気を静めるためにも「山の神神社」にお詣りしておきましょう。
 柱にくっつけられているボックスには芳名帳が入っています。
 険しいところですが、各地の方々が訪ねられておりました。

yamagata1915.jpg

 ……で、さて、改めて公開する「松保の大スギ」の幹姿、こんな感じです!
 もう、最初からヒューマンスケール。
 あまりにも大きすぎ、まるで壁のようで、それだけ撮っても何が何だか伝わりませんよ、これ。

 間近まで近づくと、文字通り視界が全て杉で埋まってしまう。
 いや、それ以前に、立ちはだかる物体の単純な大きさとして、怖さを感じるくらいの圧力があります。

yamagata1923.jpg

 いやほんと、すさまじくデカい!
 近づけることを知っていたので、四国同様、20mの長尺をリュックに入れて行ったのですが、とんでもない。
 こんなもの、ひとりで測れるわけがないでしょう。
 なんておこがましい。自分の愚かさを思い知りました。
 
yamagata1916.jpg

 板状に横にだけ広いとか、複数の幹が変な形に合体したとか、そういうトリックのものではなく、ただただ太い幹。
 どこから見ても太い。すごい。
 そしてまた色つやがよく、樹皮には若々しさすら感じる赤みがあります。

yamagata1917.jpg

 しかし、きれいな姿の杉ではない。
 全体樹高はそれなりに高いですが、幹の形状は独特で、主幹というべきものは地上10メートルほどしかないと思います。
 そこまで恐ろしく太かった幹が、一気に無数の大枝になってバラけ、伸びあがっていく感じです。
 雪深い地域にしぶとく生きる裏杉の特徴そのものですね。
 雪の重みで折れてからが本領発揮の裏杉、折れる数以上の枝を出し、生きれば生きるほど凄みのある姿に変貌していきます。

 この樹に関しては、イチョウによくあるような気根まで出そうとしている。
 枝は、上空を目指すと同時に、地面をも目指そうとして伸びています。

yamagata1925.jpg

 ぐるぐる巡りながら、異様な枝のディテールを見上げる。
 見えるでしょうか……数メートル上で、接触した枝が別の枝に連理(癒着)しています。
 こうした荒業を駆使して、この杉は今現在もどんどん太くなろうとしています。

yamagata1918.jpg

 三脚を据えなおそうとして足元を見れば、点々とヤニが落ちている。
 どれほどこの杉の生命活動が動的であるかを印象付けられます。

yamagata1924.jpg

 横に伸びた大枝から無数の幹が垂直に伸びると同時、下方に向けても枝を伸ばしているのがわかると思います。
 この野心、貪欲さ。
 初見で感じた圧迫感や怖さに近い圧力は、こうした巨大な裏杉が放つ独特のものであったと思い出しました。

yamagata1922.jpg

 正面から撮る時どうしても邪魔になる別の杉があるなあ……なんて思っていましたが、全体を把握してから考えれば、これ、この大杉の別の幹ですね。
 根元に茂っている若い緑も同様。
 典型的な伏条更新(枝が地面に触れると、そこから根が出てクローンを作ることが可能)です。
 姿形もさることながら、こうした貪欲な生存戦略の光景を見せつけられると、太平洋側のお上品な表杉とはまるで別種の生き物のように感じます。

yamagata1921.jpg

 折れて本望。倒木更新さえやってのけそうです。
 この杉の気根や下方向への枝張りは、それすら視野に入れているのではないかと思います。
 ただ、もし枝がひとつでも折れれば、一撃でこのお堂を破壊するでしょうが……。

yamagata1920.jpg

 一樹にして森とは、決して言いすぎではなかったな……と思いました。
 これまでいろんな巨樹を見たし、杉もたくさん見ましたが、まだこんな樹がある。
 すごく胸躍らせてくれる事実です。

yamagata1919.jpg

 どんなに控えめに言っても、とんでもなく素晴らしい巨杉。……とても変な言い回しですが。
 計測は尻尾を巻いて逃げたわけですが、ひとつ明らかなのは、公式数値として出ている10メートル台という幹周はかなり過小です。
 天然記念物指定が昭和28年というから、その時の数値じゃないのか??

 そのはず、帰ってから調べてみると、巨樹写真家の高橋弘さんが実測された際には、12.1メートル(!)という数値を叩きだしている。
 単幹形状の杉で12メートル超え! と絶句しそうですが、いやいや待ってくださいよ、と、自分の目で見てきた者は食い下がります。
 本当にそれくらい? 12メートルで収まるの、これ?
 そして、その計測記録を見れば、03年時点となっているではありませんか。

 それから16年経って、この勢いで、どれだけスケールアップしているか。
 また、自分の「巨大さ」に関する感覚がどの程度の精度を持っているかを確認したい……いやいや、単純に、この杉は絶対見てもらいたい! という一心で、ご同胞の方との再訪をぜひ固めたいと思いました。
 ご同胞の方々は関西にお住まいですがね。山形のウマいお肉とお酒で釣ろうかな!笑

yamagata1933.jpg

 解説文。
 幹周13メートルを超えていたとしても、側で押しつぶされそうになった僕としては、一切疑いませんよ。
 伏条更新のこともここに説明されていましたね。

yamagata1930.jpg

 改めて、遠景でもすごい迫力があります。
 すぐ近くに田んぼがあるのも、ここまでの道のりを考えれば驚きです。ここまで通われて作業されている方がいるんだ……と。
 数十年前には松保の集落というものもあったようですが、今ではこの田んぼをされている方のみで、周囲には住まわれていないようです。
 もちろん過度な水分は植物体に良くないでしょうが、そこは大裏杉、田んぼの水や養分まで吸い取っているかもしれません。

yamagata1931.jpg

 1時間以上、ゾワゾワしっぱなしで撮り続けました。
 周囲は自然豊かで、ハチにびっくりしたり、足元に……うわっ、この茶色いおしゃれな柄はマムシだ! と思ったら、アオダイショウの若いやつだったり(若いアオダイショウはマムシに柄を似せて身を守っている)。
 ボコボコの林道も、行きの下りと帰りの登りでは勝手が違うように見え、いくらかファイトを残しておかねばと思ったり。
 にわか者には色々と刺激が強い巨樹行となりました。

 ですが、本当に素晴らしいものを見させていただいた。
 これが待っているとわかれば、険しい道も、また走りたいと言ってしまえるくらいです。

 最後に、遠景でのヒューマンスケールも撮りました。
 モノクロ写真をクリックすると、拡大するとともに、カラー版を表示します。
 ぜひ見てみてください。


yamagata1926.jpg

「松保の大スギ」
 山形県西村山郡大江町松保
 樹齢:1100年
 樹種:スギ
 樹高:30メートル
 幹周:12.1メートル

6コメント

to-fu  

もう冒頭の一枚で一気に持って行かれました。何だこれ。
どことなく石川の「御仏供杉」のようなシルエット。あれが人間の管理下ではなく
完全な野生で育ったらこんな風な姿になったのかもしれないな、と感じました。
東北の巨樹は完全ノーマークに近いですが、こんなの見せられちゃうと東北が気になって仕方ありません。
こんな巨樹があって美味いお酒とお肉まで…えーと、山形って理想郷か何かですか?

しかしここまで突出したスギがよく落雷に打たれず生き残っているものですね。
控えめに書かれた幹周もそうですが、樹高だって30mどころか軽く40m以上ありそうに見えます。
いやー、これが視界に入った瞬間の感動を想像すると…PCの画面越しにもニヤニヤしてしまいますね 笑
「松保の大スギ」覚えておきます!

2019/09/17 (Tue) 21:05 | EDIT | REPLY |   

さかした  

山形は雪漫々っていう酒が美味いんだよ(さりげなく餌を撒いてみる)。

2019/09/17 (Tue) 22:11 | EDIT | REPLY |   
狛

狛  

Re: タイトルなし

to-fuさん>
そう、僕も御仏供杉を思い浮かべました。周囲環境がひらけていないとこうはならない樹形ですね。
おっしゃる通り孤立して大きい樹なので、風が周囲の山に遮られるのか、落雷の発生率も低いとか、地域性がよく働いているのではないかと思います。
横にもボリュームが出て、なおかつ枝が地面を目指すところが、まさに裏杉の生き方ですねえ。
厳しい環境だからこその威容が拝めるのは北陸にも通づることですが、東北のものは、大地が広くてどこかのんびりした感じもあります。
まったく、あの林道を走っている間はストレスも感じましたが、杉の前に立ってからはそんなことはすっかり忘れてました。
素晴らしかったです。

東北は食べ物美味しいですし、自然が厳しい面もありますが、それゆえに自分の地域では見られない光景や風景も見せてくれそうです。
山形は未開な感も強い。考えただけでもそわそわしますね。
遠いですが、to-fuさんもぜひお誘いしたいですね。きっと楽しめると思いますよ。

2019/09/18 (Wed) 08:57 | EDIT | REPLY |   
狛

狛  

Re: タイトルなし

さかしたさん>
メモりました。笑
天童の酒造会社なら、概ね寄れる位置ですね。
こんど探してみましょう。

2019/09/18 (Wed) 08:58 | EDIT | REPLY |   

RYO-JI  

あの極悪路を30分運転してまで見に行く巨樹とは?
そんな疑問を期待と共に胸に抱いていましたが、早くも正解が見られました。
これですか!
そりゃあこれを見られるのなら行かねばなりませんね。
愛好家魂が試されますますし、ただ単純に後先考えずに突撃したくなるレベルのスギですよ、これ。
巨大な姿は写真でも充分伝わりますが、実際の圧力は対峙しないとわからないものですよね。
軽く想像を超えてきそう。
到達までの道のりもさることながら、この野蛮なほどの裏杉ぶりは夢にまで出てきそうです。
こんなもの会えるなら、エサは無くても行きますよ。
ええ、もちろん、肉に蕎麦に酒もいただきますが(笑)。

2019/09/18 (Wed) 22:00 | EDIT | REPLY |   
狛

狛  

RYO-JIさん>
もっと落ち着こうと思ったんですが、写真を眺めていると、やっぱり我慢できなくなりましたね。笑
なかなかお目にかかれないクラスの巨樹なのは確かですが、これほどのものは写真に撮っても明らかに違う感じを発してきますね。
個人的にはかの岩屋の大杉と並ぶ大物だったと思っています。
これはもう、いろんな言葉を連ねるよりも(連ねましたが)、ぜひとも実際に前に立ってもらいたいです。

行くなら乗せていきますよ。
一度走ったら二度目に不安はありません。
もちろん僕としましても、お肉にうまい飯は何度でもいただきますが。笑

2019/09/19 (Thu) 08:03 | EDIT | REPLY |   

コメント投稿