巨樹を訪ねる 五所神社の大スギ

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K-1 mark2 / HD PENTAX-D FA 28-105mmF3.5-5.6ED DC WR

 山中の異形のスギ「桃原の牡丹スギ」に慄いたあとは、1時間ほど走って徳島県に戻りました。
 とは言っても風景は相変わらずかなり険しく……それでも時々美しく、そして我々は相変わらず、誰もそこでは曲がらないような道にわざわざ折れ入って、くるくると山を巻き登るのでした。

 ここもまた、なんという急峻な地域なのでしょう。
 道幅は狭く、連続カーブで果てしなく登り……しかし、かと思うと、いきなり数軒の集落が出てきたりする。
 その山界の頂と言っていい場所に、今回の徳島・高知巨樹行で最後の目的地と設定した巨樹があります。
 それが「五所神社の大スギ」でした。

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 まったく険しいこと極まりない。
 しかし、こんなところにも集落があり……いや、あるどころか、この辺りでは人の気配が珍しくないことに驚きます。
 行き違えないところで何度も対向車に出会う。それが生活感のあるファミリーカーだったり、お母さんがお使いやお迎えで運転してるというような風だったり……。
 よく見ると、すぐ近くにバス停まであるんですよね。なんてこった。

 撮影後に察するのですが、ここに至るメインルートは他にあるのでしょう。
 高知県側から巨樹を巡りながら迷い迷い登ってきた我々は、険しい裏口から登ってきてしまったという感じか。
 なので、「五所神社の大スギ」の初対面の姿も、正面ではなく、後ろ側からのこの眺めでした。

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 それでも大杉は、目を奪うのに全く不足のない迫力を叩きつけてきます。
 神社前の幾分斜面となった場所に生育し、重力に引っ張られるようにして斜め方向に盛んに枝を伸ばしています。

 神社自体に特記したくなるような特徴はありませんでしたが、定期的な手入れはされているようで、地域の集合場所や共有の場所として認識されているように感じました。
 ああ、あのごっつい樹がある神社やね、みたいに。


 五所神社という神社自体は日本各地にあるらしく、祭神もバラバラです。
 五つの神様を併せて祀っているとか、周辺の五社を統合したからという意味があるようで、ここには明治期の悪法「神社合祀政策」の影響があるのではないでしょうか。
 そうでなくとも、こういった山中では過疎問題などから纏めざるを得なかったのかもしれません。
 
 こちらの神社自体は「大宮神社」という名前でも呼ばれており、googleなどではその名になっています。
 「大宮」は神社を敬う言葉であるので具体的な呼称ではなく、結局、神社の詳細はよくわかりませんでした。

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 巨樹に話を戻すと、一本杉的な雰囲気ではなく、天然というか、野生の杉なのではないかという外見をしています。
 地上2、3メートル辺りで次々に分岐し、10又……くらいまでは数えることができるのですが、小さいものも含めるとそれ以上かもしれません。
 枝は伸びた先でまた分岐を発生し、勢い旺盛、かなりのボリュームに育っています。

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 切り立った崖に生えたような地形も相まって、まるで裏杉のような豪快な雰囲気を醸し出している。
 この周辺、標高の高さからか、冬場は真っ白になるくらい降雪があるようです。
 際立った環境に生きることで、杉の中の裏杉遺伝子が覚醒したのかもしれない……なんてことを考えながら見ていました。

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 大変に巨大で逞しい幹ですが、大枝が折れた痕か、裏側(神社側)には傷みが出ています。
 合体樹ではないと思いますが、なんとなく、この部分はもう捨てて他の部分で頑張るぜ! のような意思を感じました。
 こういうことを幾度となく繰り返して大きくなった樹なのではないかと思います。
 断面としても、円柱状ではなく、板のような(しかし巨大な)複数の幹が斜めに接合されているような有様。
 考えてみれば、斜面にある場合には、こういった断面の方が踏ん張りが効きますよね。

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 朽ちた部分から伸びる幹がこの樹にとっての主幹だったようです。
 が、落雷や台風の影響で裂けつつあり、金属のベルトのようなもので締め付け、固定していました。
 険しい環境の中で決して素直とは言えない形状に育った巨樹だけに、ここが裂けたらどうなることか……確かに意味ある処置でしょう。

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 一方で、樹自体は元気そのものの様子。
 背中側が裂けそうなのに、持ち前の野性味を発揮しながら、そんなことは知らねえとばかり、新しい枝を次々と生んでいっているように見えます。
 よく見ると、枝の先には新しい葉が点々と吹きつつある。
 クスやトチの花といい、超高齢であるはずの巨樹が見せる新しい生命活動は、本当に心が温かくなる光景です。
 5月にこの四国を旅できたことを嬉しく思います。

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 野性味。この言葉につきますね。
 背後にもう一本、別の杉が見えますが、この樹のこともちょっと覚えておいてください。

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 手前のぐるぐる回りながら登ってくる道路を少し下っていって、撮影。
 比較的ひらけた場所にあるので、全景も撮りやすかったです。
 こうして見ると、裂けているとは言え、主幹の樹高はかなり高く、先端ではまだまだ枝葉の勢いも失われていないことがわかります。
 もちろん、下部では、森のような緑の茂り。
 そして、側にいるto-fuさんと比べて頂ければ……見つかりましたか? 幹の巨大さがわかると思います。
 もちろんこうなったら……

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 そう、実測タイムです!笑
 この時点で時刻は16時半を回り、何より一日中ヒヤヒヤ・ビックリの連続で、だいぶまったりしたいような空気になっていましたが、自分に喝を入れるつもりで!
 というか、こんな大杉、一人では測れませんのでね。
 to-fuさんとRYO-JIさんももちろん強制参加、嫌だと言ってもやってもらいます。笑

 長尺を伸ばしながら幹を回っていく時の、あの感覚……忘れられません。
 ウソだ、まだ伸ばさないといけないのか!? と、巨樹の大きさがよりダイレクトに突きつけられる。
 そしてそれとともに、至近距離で仰ぎ見る巨樹が本当に怖いくらいに巨大に見えてくるんです。

 12.9メートル……結果に唖然とします。
 前述のように複雑な形状の幹ですから、この測定方法で正しかったのか? と疑問が生じますが、考えてみると、複雑な形状に沿わせて測ってしまうと、それだけ長さは長くなってしまう。
 これは、ごく素直に最短幹周を測ったに過ぎない数値と言えると思います。

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 解説板。
 実測で興奮して、つい撮り損ねてしまったので、拡大抜粋で。笑

 実測前に我々のカンというものの精度を確認すべく、予想幹周を論じあったのですが、12メートルから13メートルという意見にまとまりました。
 ついでに、側に生えていたきれいな一本杉の幹周もテスト計測、これも4メートル台と大体合っておりました。
 実測できない巨樹が多いので、こうした見立ての目が育つことは素直に嬉しいです。

 しかし……平成15年には12.2メートルの幹周だったと愚直に考えると、15年で70センチも成長している……?
 素人計測だという説もありつつ、いや、この樹ならそのくらいの成長もありそうだとも感じます。
 申し遅れましたが、何を隠そう、徳島県で最大の幹周囲を誇る大杉なのですから。


 ここもまた、近いうちに再訪を誓えるような場所ではない。
 もちろん他の巨樹に対してもそうですが、素晴らしい時を過ごさせてくれた大杉にお礼を言って、我々は、暮れ始めた山道をまた走り出しました。
 

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「五所神社の大スギ」
 徳島県三好市西祖谷山村上吾橋 五所神社(大宮神社)
 樹齢:1100年
 樹種:スギ
 樹高:30メートル
 幹周:12.9メートル(実測)

4コメント

to-fu  

平家の落人伝説に日本三大秘境の称号。いやいや…物凄い立地でしたね。
もう一度行けと言われても、やっぱり同じように迷うだろうと思います。辿り着けないかも。
たくさんの大物たちに会い、あの浮世離れした景色を見続けていたので現地では脳が
ちょっと麻痺したような状態だったのですが、家に帰って改めて写真を見返していたら
待て待て、これとんでもないスギだぞ!と。他所の県なら一番の目玉と言われても
納得してしまうくらいの大物ですよ、これは。

京都に「朝倉神社の大杉」という巨樹がありまして、この巨樹が江戸時代に売買された際の目録が残ってるんですよ。目録の実測値と比べると約140年前に売買された時点から現在までに幹周がなんと約4.4mも生長しているそうです。まあ我々のザル測定なので多少の誤差はあるかもしれませんが、平成15年から約15年間で70cmというと有り得なくもない数値なのかな、という気がします。

このスギ自体とても立派なものでしたが、撮影後の「この巨樹で全て終わってしまったんだな…」という達成感もあり、ちょっとアンニュイでもあり…みたいな気持ちが凄く印象に残っています。良い巨樹だったし、良いところだったなあ。

2019/09/03 (Tue) 15:39 | EDIT | REPLY |   

狛  

to-fuさん>
平成15年でしたね。2015年と見間違ってまして、修正しました。笑
15年で70センチ成長というと、かなり現実味のある数字になってきたように思います。
あの樹勢ですから、片一方で傷みつつもそれくらいは大きくなっていそうですよね。
そう、確かに、茨城県にこれがあったらもう大変ですね。
おふたりに写ってもらってのヒューマンスケール写真なんか改めて見たら、これ、恐ろしくデカいスギですね……(何をいまさら)。

そういえばありましたね、平家の落人センター(?)。ここの地形を見ていると、それこそ追手から逃れて生き延びるには最適だろうなと。
そんなところばかりだったので、僕も運転しつつ何が何だか白昼夢のようで。夕暮れと共にこの杉を撮り終えた時、なんとも言えない寂寥感が押し寄せるのをどうしようもなかったです。
しばらく道路に座って、ぼーっと眺めていたという、この杉の姿はそう見た印象が一番残っているかもしれません。

2019/09/03 (Tue) 21:09 | EDIT | REPLY |   

RYO-JI  

実を言うと、二日目の行程は杉の大杉に始まり、その後は3本連続で杉で大丈夫かなぁと心配していました。
もちろん杉の大杉の別格の姿に圧倒される訳ですが、以降は消化試合みたいにならないかと。
しかし完全に杞憂に終わりましたね。
どれも個性的で印象深い杉でした。
むしろこの大スギはラストを飾るに相応しい存在でした。
数値以上に大きく感じましたし、もっと厳密に樹皮に沿って計測すれば13mは優に超えていたようにさえ思います。

なかなか辿り着かないなか、突如として姿を現したあの瞬間は忘れもしません。
全景がしっかり見られるのもいいですよね。
あの立地ですから冬場は雪が積もるでしょうし、ウラスギ成分があるのも不思議と納得できます。

2019/09/03 (Tue) 22:30 | EDIT | REPLY |   
狛

狛  

RYO-JIさん>
確かにそれはありますね。
標高が低いところはクスばかりですが、高いところはスギばかりでした。
しかし、そんな中でも険しすぎる地形に育まれたバリエーションには目を見張るばかり……巨樹の世界はそんなに浅くねえぞと言われているような感じもしますね。笑
この大杉、アプローチをさらに勿体ぶることができと、かなりのインパクトになったと思うんです。
……って、そればかりは仕方ない、ああいうところだからこそ、あそこまで大きくなれたんでしょうからね。
そう、おっしゃる通り、そこを考えると裏側から到達した我々は得をしたのかも知れません。

やっぱりクスとスギになってしまいますが、型にはめず、興味・衝動の向くままに巡るというのはやっぱり尊いなと感じた2日間でした。

2019/09/04 (Wed) 09:24 | EDIT | REPLY |   

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