巨樹を訪ねる 桃原の牡丹スギ

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K-1 mark2 / HD PENTAX-D FA 28-105mmF3.5-5.6ED DC WR

 高知県大豊町、険しい山合いの集落で「六社聖神社の大杉」を訪ね、さらに東へ進みます。
 できれば走りたくない国道439号(ヨサク)も、時々32号になったりしつつ、ここくらいまでは普通の道路のフリをしています。
 が、我々が向かう先は、突如として横道へ逸れる。
 するとまた、すれ違い不可能当たり前な渦巻き登坂道です。

 忍耐強くじりじり走り、時々迷ったりしつつ、目的の巨樹があるという神社へと辿りつきました。
 「桃原の牡丹スギ」。
 この旅きっての異形の大杉でした。

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 到着した時にはすでに14時も回り、西日がかなり眩しくなってしまいました。
 写真もお見苦しいところがあるかと思いますが、ご容赦ください。

 スギの形態の豊かさには毎回目を見張るものがありますが、異形と一口に言っても、「桃原の牡丹スギ」はこれまでに見たことがないようなタイプの異形でした。
 勘が良い方ならトップの写真ですでにそう感じられるでしょうが、枝の張り方、葉の付け方が、とても杉とは思えないような格好をしています。

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 異形でありながら、なかなか背が高い樹です。
 望遠で上空を睨めば、確かについているのは杉の葉なのですが……こんな風にモコモコと、雲のように盛り上がる格好のものは珍しい。
 まるで酒屋の軒下に吊るされる杉玉が自然に作られているかのよう、もしくは(そんなワケはないんですが)イブキの血が入ってるんじゃないか? などと想像してしまいます。

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 しかも、その内部には小骨のような細かな枝が無数に巡らされている模様。
 この辺りの眺めも杉らしくない。
 余裕があれば、ぜひ他の杉の巨樹の枝と見比べていただきたいのですが……例えば、スタンダードに馬鹿でかい杉である「加子母の杉」
 枝葉の物量が豊かと言っても、この牡丹スギとはだいぶ印象が違うと思います。

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 ディテール過多なところがある。
 簡単に言ってしまうならば、グロテスクな樹です。
 背が高い上に、こちらを見下ろすような立地に立っているせいもあってか、強い威圧感を感じ、ワクワクしながら駆け寄るという感じにはならない。

 ちょっと足に喝を入れる感じで近づくと、幹が根元で大きく2本に別れていることがわかります。
 この副幹のようなものも、軟体的にうねっている上、変な枝の付き方で不気味です。
 まるで、大蛇が生えているかのように見えます。

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 10メートル以上あるという幹周囲は、もちろんこの分岐も含めて計測されているはずですが、かなり大きい。
 主幹の方も想像より太いし、合計すればこれで10メートルということはなかろうと思うほどの大きさです。
 主たる資料に書かれている年月が昭和の終わりのものなので、その後30年間で成長した分は加味されていないのではと察します。

 さらに近づくと、この杉が、資料で見ていた時の印象からかけ離れ、傷だらけで荒々しい巨樹であることがわかります。
 自分の勝手な妄想ですが、もっと小ぎれいな、女性的な佇まいの樹なのだろうと思っていたので……ポジからネガへ、落下インパクトはかなりのものでした。

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 かつてはかなり低い位置からも枝を出そうと試みたようです。
 しかし、外的要因によるのか、ことごとく折られ、痛々しい傷跡を晒しています。
 それで枯れるかと思いきや、この樹はますます貪欲に成長したのでしょう。
 幹は瘤のごとく盛り上がり、ゴツゴツと巨大化していった……。

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 上部でも、自然界の定めに対したこの樹の闘いの跡が凄まじく見て取れます。
 もはや、立ち姿が優美であるとか、元気になる生命パワーをもらえるとか、そういう眺めとは真逆を行っている……。
 かなり凄まじい眺めです。

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 加えて、この樹、色彩が全体的におどろおどろしかったように印象に残っています。
 僕のカメラの設定がおかしいのかもしれませんが……

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 これなんかもはや、ティム・バートン的な? ナイトメアービフォアーなんか、みたいな……なんて茶化している場合ではなく、現地で見上げていても、どこか影が濃く、にわかに魔界的な風が吹き下ろしてきたように思います。
 長い幹が、ギシギシギシ……と軋み、ゆっくり揺れる。
 
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 巨大な魔界のサンゴ礁を覗いているような気分にすらなってきます。
 やはり、一般的な杉の巨樹を見ているのとはかなり異質な感触です。

 華やかな感じすらする「牡丹杉」という名は、盛り上がった葉のボリュームが牡丹のようだとつけられたものらしいです。
 が、一方で、この杉には「天狗杉」という名前もある。
 なるほど、そっちのほうがいかにもぴったり……。

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 しかし、「天狗杉」という名の杉は日本各地にあるので、ここは「牡丹杉」の名で資料検索の目を引いてくれたことに感謝。
 大きさもさることながら、こんな個性派の杉だとは思いませんでしたからね……。 

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 足元の藪が深くなっていましたが、構わず夢中で撮ってしまいました。
 立っている地が地なら、「これも裏杉の一形態なのであろう……」かなんか知ったかぶりを打ちそうですが、雪のない土地で、ここまで荒々しい力強さを放つ杉に出会うとは、かなり意外でした。

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 周囲の杉に同様なものがないのもまた不思議です。
 どうしてこの一本だけが、このような形に育ったのか……考えてみると、記憶に残る巨杉というのは、孤独に見えることが多いように思います。
 どれにも似ていないような1本が忽然とその場に現れている。
 そこから、お大師様やら上人さんらのお手植えなどという伝説も生まれるのだろうと思います。

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 敷地の一番奥にある大杉に対して、解説板が敷地の入り口、数十メートルも離れた場所に立っており、危うく見逃すところでした。
 どうやらこの桃原地区には、室町の頃から伝わる「百手(ももて)」という弓を射る神事があるそうで、神社境内にあった屋根付きの建物は、これに使われる射場だったようです。
 現在もそれが継承されているのか……寂れ具合から、ぱっと見にはわかりませんでした。

 牡丹杉の由来としては、ご覧のような伝説があるそうです。
 そうだよな、山岳信仰の力を借りずに、こんな山深いところまで生きて到達することはできないだろうな……と納得します。
 そういった意味からも「天狗」の名が使われるのは意味深です。
 個人的には、どんな重罪で17人もの巫女がこんな地まで流されてきたのかも気になるところですが、深読みするなら、巫女が京都から持ち込んだ杉の苗が成長したのだとすれば、一本だけ毛色が違う説明になるのかもしれません。
 
 ちなみに、文中にある「魚梁瀬(やなせ)の杉」とは、秀吉が欲した銘木揃いの産地とのこと。
 現在でも巨樹が多い地域のようですが、これまた一生に一度行けるか? という秘境のようです。


 牡丹杉。
 ツワモノ揃いの今回の巨樹行の中でも印象に残る樹でした。
 陰気を放つ疵の多い樹ではあるけれど、どこか惹かれるところがある。
 このフォルムはもう一度、モノクロでも撮ってみたいかもな……などとも思うのでした。


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「桃原の牡丹スギ」
 高知県長岡郡大豊町桃原 熊野十二社神社
 樹齢:1200年
 樹種:スギ
 樹高:31メートル
 幹周:10.6メートル

4コメント

to-fu  

たった数日間でたくさんの巨樹を見ましたが、この牡丹スギはもう一度ゆっくり対峙してみたい巨樹としてはかなり上位に来ます。
加茂の大クスや杉の大杉クラスになると今行っても前回と同じように呆然と立ち尽くすしかないように思うんですが、
このスギに対してはもう少し余裕を持って向き合えるんじゃないかと。前回は夢中でシャッターを押すだけで精一杯でしたから。

単なるサイズや国天のような称号だけでは測れない、唯一無二のスギの巨樹だと思います。
気候や環境、色々な要因があってこの造形が出来上がったのでしょうが、ここまで異質な個体と向き合ってしまうと
理屈なんて抜きに一つの奇跡を目の当たりにしているような気にすらなって来ます。いやー、眼福でした。
こういう巨樹と出会えるからこそ遠征はやめられないですよね。

2019/08/29 (Thu) 21:46 | EDIT | REPLY |   

RYO-JI  

初見の印象がここまでガラリと変わるスギも珍しいですよね。
その名前と遠方からのスマートな姿とは打って変わって、かなりキョーレツな姿をしていましたから。
見ている間はずっと心がザワザワしていましたもの。
他のスギではあまり経験のない見ていてやけに落ち着かない感じとでも言いましょうか。
それでもまた見たい巨樹のひとつとなりました。

魚梁瀬の杉・・・ここも凄そう。
ガイドさんに案内されながら見て回るっていうのは、かなり面白そうですね。

2019/08/29 (Thu) 22:30 | EDIT | REPLY |   
狛

狛  

to-fuさん>
杉の巨樹のバリエーションの多さはほんとに面白いですね。
この樹も、ただ幹周がそれだけ大きい樹、それだけ、ということではない。
こう来ましたか……みたいな驚かせ方をされた時、愛好家としてはすごく気持ちが高まってきますね。
ここにしかないものを見た! という感動がありました。

訪ねた時刻や季節がああいう感じでしたが、それら要素が変わると、印象が変わる樹かもしれませんね。
形、生き様が複雑で独特なだけに、もっとよく見てみたい、この樹のことを理解したいと感じます。
自分と樹が生きているうちに、再び対峙したいものですね。

2019/08/30 (Fri) 09:04 | EDIT | REPLY |   
狛

狛  

RYO-JIさん>
そう、僕も思いました。
遠目から見たときは、かなりスラっとして、優美な感じにも見えるんですよね。
地元の観光記事かなんかで「扇を広げた天女の舞」とかなんとか耽美に書いたものがありましたが、
遠くからだけ見ればそう感じる人もいるかも?
しかし、10メートルまで近づいて、同じこと言えるのか? ってところですね。笑
周囲の杉から孤立してああいう形態だし、また、牡丹スギだけがゆらゆら揺れているように見えるんですよね……。
僕もザワザワゾワゾワしっぱなしでした。
でも、この感じはちょっと癖になるというか。笑
一説には八房杉の系統だ!とかSFじみたことを書いてるところもあって、両者に刺激を受けた身としては、それもまた刺激的です。

魚梁瀬……ちょっと行ってみたい気もしますが、ここはほんと遠い。
間違いなくすごいところですね。
手ごわい……。

2019/08/30 (Fri) 09:12 | EDIT | REPLY |   

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