巨樹を訪ねる 杉の大杉

shikoku2069_201908162046411ce.jpg
K-1 mark2 / HD PENTAX-D FA 28-105mmF3.5-5.6ED DC WR

 四国巨樹探訪旅も徳島から高知へと移りましたが、一発目で最大のカリスマに挑戦する運びとなりました。
 天然記念物の中の国宝、国の特別天然記念物に指定されている超弩級の巨大杉。
 「杉の大杉」です。

shikoku2068_20190816204642b62.jpg

 まずは、何も言わず、この規模を見て頂きたいです。

 超有名な巨樹で、アクセスはこの上なく良い。
 高知高速自動車道の大豊インターチェンジで降りて少しだけ走り、道の駅「大杉」という、分かりやすさ1000%の道の駅でトイレ休憩したら、あとはもう目と鼻の先です。
 拝観料200円を払って振り向けば、もう、どうしても隠せない巨大杉の先端部が見えているという按配。

 ついに念願叶う、と、ドキドキしながら八坂神社の鳥居をくぐった途端、3人揃って足を止め、動けなくなってしまいました。
 なんなんだこれ……。

 巨大すぎて、自分の脳がにわかにそれを樹木であるとは認識してくれない。
 岩山か、そうでなければ、直立したタンカーとか、そういう部類の存在感を感じるのを如何ともし難い……。
 モノにはそれ相応のレベルがあるということでしょうが、この樹は、その仕切を飛び越えてしまっている。
 思い浮かぶ比喩に対してぶつかる「いや、やっぱり樹木だわ……」のインパクトが強すぎるため、痺れて立ち尽くすしか無くなるのです。

shikoku2064_201908162046489b7.jpg

 そう……とんでもないことですが、この超絶巨大な物体は樹木です。
 何言ってるんだこいつは、と思われるかもしれませんが……。
 「存在」や「実在」などという、そのもののことを考え込んでしまいます。

shikoku2066_20190816204645927.jpg

 幼少の頃、巨大な像や船や恐竜や、そういう馬鹿でかいモノが怖くて仕方なかった。
 おそらく、その頃のちっぽけな狛がこのとんでもない杉の前に立ったとしたら、恐ろしくて泣き喚いたんじゃないかと思います。

 その一方で、「怖い」と思うモノに、常に興味を惹かれ続けるというのが人間の不思議な心理です。
 それで自然だとも思いますね。
 だって、「怖い」ものに無関心だと、すぐ食われたり踏み潰されたりしちゃいますもんね。
 合理的な仕組みなんだと思います。
 僕の巨樹に対する興味というのは、そこが原点じゃないかと……そんな根源的なことすら考えてしまいました。

shikoku2074_20190816204633103.jpg

 オーケー、かろうじてオーケー、目の前のとんでもないコレは、樹だ。
 話がどっかに飛んで行ってしまいがちですが、巨樹、樹であるということを踏まえ、考えてみましょう(何言ってんだ)。

 巨樹の主役とも呼べる杉。
 誰もが知る超有名カリスマ巨樹・屋久島の「縄文杉」が日本最大の杉だと思っていませんか?
 確かに、幹周囲16メートルというデータは大したものですが、最も大きいかというと、そうではない。あえてそう言います。
 数値的にもさらに大きいとされているものもあるし、近くことが一切許されず、遠くから望むだけの縄文杉では、その大きさを完全に実感できないのでは? というネガティブ要素もある。

 巨樹探訪している身として、そりゃあ屋久島にも一度は行っておくべきと思っています。
 が、巨樹ならまず屋久島でしょ! とならないのは、そういうイベント性よりも、身近に潜む大物を探訪する魅力を知ってしまったから。
 と、言っておきましょう。

shikoku2075_20190816204632b5e.jpg

 まず、この「杉の大杉」の大きさは、縄文杉にも全く劣りません。
 2001年に行われた環境省フォローアップ調査結果では、南大杉の幹周が15.6メートルということで、これだけでも肉迫している。
 その上、ご覧の通り、「杉の大杉」にはもう一本、11メートルを超える北大杉が聳え立っている。
 しかもここでは、この「超」巨樹とでも呼べる存在感を、数メートルの距離で目の当たりにすることができる!

 ……と、興奮して書きますが、いやー、写真に撮ると、この強大無比な存在感というのは全く表現できないものですね。
 苦笑するしかありません。
 この距離まで寄れてこんなザマですから、遠くから望遠で撮る縄文杉は……撮りに行く前から、もったいないなと思ってしまいます。

 同士3人で訪ねたのは幸い。
 大杉の前にto-fuさんと RYO-JIさんをちょっと置いてみて、この杉の大きさが高層ビルも同然であることを示すことだけはできます。

shikoku2070_20190816204639f9f.jpg

 日本で最大といってもいい巨大杉なので、巨樹を扱う書物には必ず掲載されています。
 これは我々3名の共通意見ですが、その印象から、もっともっと老化しているのだと思い込んでいました。
 ところが、いざ現地に立って見てみると、決してそんなことはありません。
 これほどの大きさと高齢さを見せつけつつも、まだまだ枝葉の繁りは多く、強い生命力を感じさせます。

shikoku2067_20190816204644a97.jpg

 この巨杉も数度にわたる台風被害を受けており、ことに1954年の台風9号で大枝が折れた際には、枝1本でトラック7台分もの物量になったそうで……。
 その痕が銅板で保護されているのが目につきます。
 いかにも物々しく、異物感がありますが、巨樹を見慣れてくるとこういう眺めは痛々しく哀れに感じるもの。
 おそらく、前に立つとそういう感情に囚われてしまうんだろうな……と想像していただけに、実物が放つ強い生命感は、なおさら嬉しく、驚かされました。

shikoku2065_20190816204647505.jpg

 この、ただの枝の範疇にとどまらないような大きさの枝の眺めも、ほんとにすごい。
 正面から見ると保護部分が目立ってしまいますが、裏側はまったく無傷に近く、樹皮も健全なことに驚きました。
 いや、それにしても、ただただ撮ってるだけになってるなあ……。

shikoku2072_20190816204636e1f.jpg

 ちょっとズームしてディテールを感じてみると、この規模の大きさが実感できるような気がして。
 巨大すぎる体躯の中に、古代から生きている証しであるかのような無限のディテールが感じられます。

 この樹には、素戔嗚尊が植えたという伝説すらあるらしく……その場合の神秘的推定樹齢は3000年。
 ……まあ、それはないにしても、「1000年以上の歳月を生きる伝説の樹」という言い方を当てはめた時、微塵も疑いを感じない巨樹であることは確かです。

shikoku2077_201908162046299ed.jpg

 巨大巨大と何回書けばいいんだ、と困ってしまいますが、とにかく写真のフレームに入りきらない。
 途方にくれつつ、裏側の土手のようなところに登ると、かろうじて上部も眺めることができました。
 高さ50メートルを超える、生ける尖塔です。
 この質量が突如崩壊しないように、後方で物騒なアンカーを打って、太いワイヤーでテンションをかけていました。

shikoku2076_20190816204630de0.jpg

 樹高も本当に高い。
 一部のデータでは、南大杉は68メートルとするものもあり、この数値では、おそらく日本で一番高い樹となってしまいます。
 その後の計測で改められたものの、それでも57メートルという数値が出ているらしい。
 太く、かつ、高いという点で、本当に匹敵するもののない巨樹であることがわかります。

shikoku2073_2019081620463521a.jpg

 再び根元を。
 北大杉と南大杉は、これだけ離れています。
 規模からして、土の中では両者が合体していることは確実ですが、さすがにこれを1本の樹と見ることには難がありますね。
 だからと言って、それがどうした? ってなもんで、南大杉は高知で2位、北大杉は5位の巨樹とカウントできます。
 株立ちのクスやカツラも存在する高知県において、切り分けてなおこのランクに食い込んでくるのですね。

shikoku2071_201908162046380d2.jpg

 興奮冷めやらず、同じような写真を何百枚も撮ってしまいました。
 この大巨樹のスケールを表現しきれたとはとても言えない写真を……。

 前日のラスト「加茂の大クス」に続いて、この「杉の大杉」も国の特別天然記念物に指定されています。
 特天に指定されている杉は、「杉の大杉」と、かの「石徹白の大杉」のみです。
 まさに特天にハズレなし、か……。
 特天ともなると、こちら受け止め手がオーバーフローしてしまうというものなのだと暗に突きつけらたようにも感じますが……。

shikoku2063_2019081620465038e.jpg

 立派な解説版。クリックすると大きくなります。
 さすが、多言語で色々なことが書かれていますが、樹齢・幹周・樹高においてレギュレーションにイマイチ従っていないのがちょっと気になります。
 いや、樹齢なんかは伝承でもいいんですが、このネット時代にこの表記では情報が錯綜してしまいます。

 「加茂の大クス」においても、幹周もっとあるだろ? いつ測ったんだよ? 問題があるし、やっぱり特天ともなると恐れ多くて、こういった更新がかえって遅れてしまうものなのでしょうか。
 まあ、「石徹白の大杉」に解説版のたぐいがなかったのは、逆にヨシ! と個人的には思うのですがね(ワガママ)。

 ちなみに、いつもの巨樹おじさんのサイトの情報によると、2010年当時は、周囲に絶えず音声解説が流れているという状況だったそうで、確かにそれは蛇足だなあと思います。
 現在ではそれに該当するものはなく、静かなところで観察や撮影に打ち込めるのはありがたいですね。
 もっとも、有名な名所ですので、観覧のお客さんはひっきりなしです。

 
 とにかく、とにかく、そういうワケで。
 思い切り遠いけど、ここはいつか絶対……! と闘志を燃やしていた念願の巨樹に対することができ、気づけば1時間半も3人めいめい、夢中で撮っていました。
 世の中には本当にとんでもないものが存在するのだという実感をはじめ、日常生活では得難い感情を色々と呼び起こしてくれる、巨樹中の巨樹でした。



shikoku2078_20190816204629a22.jpg

「杉の大杉」
 高知県長岡郡大豊町杉794 八坂神社
 樹齢:1000年以上
 樹種:スギ
 樹高:南株:57メートル / 北株:50メートル
 幹周:南株:15.6メートル / 北株:11.4メートル

4コメント

RYO-JI  

直立した巨大タンカーとは見事な例えですね。
大袈裟ではなくそれくらいのスケール感がありますし、見たことが無い人にも想像しやすいですよ。
そんなのが二本も並立しているんですから、そりゃ動けなくもなります(笑)。
それこそ書籍やWEBで写真は数えきれないほど見ていましたが、実際に目にした姿はまったくの別物で、
想像を遥かに凌駕する存在で圧倒されました。
そして案の定、自分が撮った写真を見返して愕然としましたね。
いや、本当はもっとスゴイんだよ!って。
写真はアホみたいにいっぱい撮りましたが、もう撮らされているだけですね。
加茂の大クスもそうでしたが、納得の一枚がありません(汗)。
高い機材を持っていてもダメなもんはダメという典型でしょうか。
もちろんリベンジしたいなぁと思いますが、ただ純粋にもう一度見てみたいです!

2019/08/17 (Sat) 21:23 | EDIT | REPLY |   
狛

狛  

RYO-JIさん>
ほんと、「杉の大杉」は、巨樹めぐりという趣味の中のカリスマですよね。
関西の方からも遠いと思われる位置にあるこの樹をついに見られて、実際感無量でした。
入門かつ必携の書「渡辺本」においても、「杉の大杉」は思わず手を止める威力を発していました。
これは……いつか高知まで見に行かねばならんヤツだ、と。

まったく、あたふた撮らされてるだけですね。
裏側があんなに勢い良いとは、書籍資料ではまったく想像ができなかったことで、エキサイティングな眺めでしたね。
思い返してみても、特天はさすがと思えるものぞろい。
より良い装備で立ち向かいたくなるのは人として当然のことですが、それすら遥かに及ばない高みから見下ろされているかのような存在感が特天の巨樹たちにはあります。
だから、そう、もっとうまく撮りたい! もう一度撮れれば! とか、そういう話じゃなくなってくるんですよね。
僕もただ純粋に、もう一度、大杉参拝のために出かけてみたいな、というそういう気持ちの方が強いです。

2019/08/18 (Sun) 10:12 | EDIT | REPLY |   

to-fu  

こうして写真を見返しているだけで震えが来ましたよ。
感動した…そんな生ヌルい感情ではなくて、驚きに興奮、そして畏怖や尊敬。
そんなありとあらゆる感情が心の中で同時に渦巻いてしまって、あの場で感じたことを
思い出そうとしてもなかなか上手く思い出せない自分がいます。まさに白昼夢でも見ていたかのような。

ホント、書籍の中で見る大杉はあの甲冑姿も相まって痛々しく見えたものですから、実物の生命感には良い意味で裏切られました。
いつ倒れてもおかしくないし早く行っとかないとな、くらいに考えてたんですけど全然違うじゃないですか 笑

石徹白にも言えますが、写真云々は置いといて定期的に参拝したい巨樹の1本ですね。
これはもう会いに行くなんていう表現では恐れ多い。巡礼のような心持ちです。
石徹白の杉に加茂の大クス、そしてこの杉の大杉。こんな神のような存在が揃い踏みする日本に生まれて幸せだなあと、大袈裟かもしれませんがそれくらいに思ってしまいます。

2019/08/19 (Mon) 10:27 | EDIT | REPLY |   
狛

狛  

to-fuさん>
結局手で触れられるわけではないし、自分のものにできるわけでもないのに、ここまで心を揺さぶられるというのは、やはり巨樹、すごいなあと思いますね。
逆にたどっていくと、だからしてただ視覚でとらえているだけではなくて、その他の五感、六感を動かされているのだろうなあ……とも。
日常、したことがないような経験をして、茫然としてしまう。それにつきますね。

ほんとにそうですね、石徹白の大杉、加茂の大クス、杉の大杉、どれにしても、こんなに凄いとは思っていなかった。
凄いとはもちろん伝わるのですが、遠いし、この環境激変の今にあっては、どれもが儚い存在なんだろうな……と、心のどこかで思ってしまっていた。
しかし、それを見事に裏切ってくれるというのは……。
これが要するに神性なんじゃないか? そして、そういう存在を見に苦難を乗り越えるということが巡礼ということなんじゃないか?
まわりまわって、そこにたどり着くような気がし、そう、それができるということの幸せをしみじみ感じます。

2019/08/19 (Mon) 15:43 | EDIT | REPLY |   

コメント投稿