巨樹を訪ねる 桑平のトチノキ

shikoku2020.jpg
K-1 mark2 / HD PENTAX-D FA 28-105mmF3.5-5.6ED DC WR

 つるぎ町もかなりの奥地まで南下してきました。
 道は国道438号ですが、このまま南下を続けるとじきに剣山(1954m)本体にまで至ってしまう……その手前にも丸笹山(1711m)があり、地図を見れば国道の峠にもなんだか(1410)とか書いてある。高地です。
 まあ、果てまで行っても悪名高い酷道439号に合流することになり、ソレを全力で西へ走って山地を貫通するだけ……になるのはとても嫌だったので、ここいらで踵を返して美馬市方面へと戻ることにしました。

 ここにある巨樹を見たら。
 実は、予定段階からつるぎ町の巨樹探訪のうちで一番期待していた樹がここにあります。
 「桑平のトチノキ」、四国最大と言われるトチの巨樹です。
shikoku2006.jpg

 見かける建物の多くは廃屋のようで、急斜面に農作業用モノレールの残骸が朽ちている。
 相変わらず、すごいところまで来たなあと思わせる土地でした。
 唐突に現れた巨樹への標識を発見し、車を停めました。
 この「巨樹王国」がらみの巨樹の標識だけが、周囲の景観の中で唯一新しさを感じさせる印象です。

 あらかじめ調べた限りでは、巨樹へは相当狭い道へ進入しなければならないイメージでした。
 が、現地標識によれば、徒歩で杉林の中の斜面を登っていくことでショートカットできるらしい。
 わくわくゼエゼエしながら登っていくと、あれっ、また廃集落? ここ通っていいの? というところに出、樹? 樹はどこにあるの? と若干慌てますが……

 ありました。
 いや、すぐ向こうに。
 あまりにも樹冠が大きく青々と濃かったせいで、山の一個かなんかと一瞬勘違いしたのかもしれません。
 トチだ……馬鹿でかいトチの樹。
 近寄り、樹冠の下に入ると、この実に偉丈夫な幹姿が目の前に立ちはだかります。

shikoku2008.jpg

 大きい……!
 目通り幹周囲8.6メートルという巨樹ですが、このレベルのトチは全国的にも本当に希少です。
 そして、出会えたならば、最大級の重量感と、いかにも「自分こそが巨樹である」という存在感を間違いなく味わわせてもらえることを我々は知っています。
 すなわち、8メートル超えのトチと聞いただけで、たまらず見に行きたくなってしまうのです。

shikoku2009.jpg

 それゆえに、自分個人としては、このつるぎ町ツアーのメインとしてこの樹を想定していた。
 この樹に出会うために、一番奥まで走るというイメージ。
 この樹が想像通りだったなら、これ以上奥地へは無理に踏み込まなくてもいい……引き返してもいいかな、とさえ。
 (いや、半分以上、ビビってるんですけどね……)
 そのように、いやがおうにでも高まった期待にも、この樹は余裕で応えてくれました。 

shikoku2010.jpg

 主幹の大きさもさることながら、望むがままに広げた広大な枝張り面積が本当にすばらしい。
 例えば、長野の「赤岩のトチ」のように、これよりも大きなものもいくつか存在しますが、枝張りにおいてこれほどまでに優れたものはないのでは?
 ……そう思えてしまうような広さ、そして樹冠の濃さです。
 直下では薄暗くてISO感度を上げなければならないほどです。

 この、広葉樹の大きな樹冠に抱かれる幸福感というのは、言葉に表し難いものがありますね。
 とてもスギやヒノキなどの針葉樹には真似できない。
 また、常緑のシイや、葉が細かいケヤキ、クス、イチョウとも全く違います。
 気が走るがままにたくさんシャッターを切りました。
 同じように、写真だけ見ていただいて、この樹の魅力を感じ取っていただくのがいいかと思います。

shikoku2012.jpg

shikoku2011.jpg

shikoku2016.jpg

shikoku2015.jpg

shikoku2019.jpg

 「巨樹」の後にいかなる疑問符も受け付けないような、素晴らしい巨樹ぶりです。
 今年のここまで、このトチよりも素晴らしい巨樹に出会っただろうか……と思い出してみると、ううむ、暫定ナンバーワンだと答えてもいいかもしれません。
 樹齢は推定500年ほどとされており、この岩のような体躯からすれば、もっと古代から生きているという伝説があっても不思議ではないですが、一方で、この樹勢はまだまだ先を感じさせてくれる。
 そこを考えると、それくらいが適正なのかもしれません。
 
shikoku2013.jpg

 夢中で撮っていると、かすかに奇妙な匂いが鼻をくすぐってきます。
 なにか、ちょっと酸っぱいような……当日はかなり暑く、自分が汗臭いのか、それとも蚊除けの匂いなのだろうかと思っていたのですが、同行のお二人も嗅いでいたことが確認できました。
 どうやら原因は足元にいっぱい落ちているこれ……つまり、トチの花だったようです。

 1センチくらいの細かな花で、枝についている時はトウモロコシ状の穂のようにびっしり固まっている。
 時期を終えたそれが次々と落花し、静かな周囲に、ぱたぱたぱた……と絶えず音を立てているのです。
 トチの花とはこんな感じなのか……花といえどいい匂いの花ではないのだな。笑
 トチを日常的に見かけない平野民には、とても新鮮な体験でした。

shikoku2018.jpg

 改めて、最大に見える位置からの姿を。
 いやあ、惚れ惚れしますね。

 2本の合体樹であるという説もあるようですが、確かに、並立したように横幅が大きい。
 大枝が豊かに発達しているせいで、上部でもしっかりと大きく、ごつごつとしている。
 トチは「栃」の他に「橡」とも書きますが、全く、この規模の巨樹ともなると、樹木の中の「象」と書くのにふさわしい巨大さを感じます。
 その辺りの感じ方は、幹周囲や樹高の数値の話じゃないんですよね。

shikoku2017.jpg

 この樹を切ろうとしたところ、どこからともなく謎の行者が現れ、「切れば祟る……」と言ったとか。
 それ以来、切ろうとはされず、大きく育ったといういわくがあるらしいです。
 今やトチの巨樹は全国的にも大変希少で、切り立ったような深山や、こうした秘境のような場所にひっそりと生育しているものがほとんど。

 しかし、目の前にできたならば、やはり断然素晴らしい。
 森や山や自然の恵みというべきものを体現してくれているようなこの幸福感を味わえるなら、険しい道のりを越えてでも会いに行きたくなってしまいます。

shikoku2007.jpg

 シンプルな解説板。
 枝張り範囲の広さは直線にすると最大50メートルを超える。
 これほど豊かな茂りを保って生きているトチの巨樹が、あとどれだけあるのだろうか……と考えてしまいます。

 とてもたくさん写真を撮りましたが、葉が盛りのこの季節に巡り合えて本当に良かったです。
 まさにつるぎ町巨樹めぐりのメイン格。
 再び会いに出かけたい樹が、また一本増えました。


shikoku2014.jpg

「桑平のトチ」
 徳島県つるぎ町一宇桑平
 樹齢:500年
 樹種:トチノキ
 樹高:20メートル
 幹周:8.6メートル

4コメント

to-fu  

あの花の匂い、私も自分の汗のニオイかと思って「やべえな、着替えようかな」なんて思ってました 笑

このお方は自分が知るトチノキの中では最も健康的な巨樹でした。
本当にあれだけ立派な樹冠を誇るトチは他に無いのでは?という気がしますね。
このトチだけ見るために再訪しても損は無いと言い切れるくらい素晴らしい巨樹です。

そして、どこから撮影してもそれなりに画になってしまうだけに難しい巨樹でもありました。
この巨樹は大判にプリントしようと決めているのですが、未だにどのカットを
プリントしようか決めかねています。願わくばもう一度リベンジしたいですよ。

あれから何本か別のトチの巨樹を見る機会がありましたが、この時期のトチの巨樹にハズレ無しですね…アブの猛攻を受けるのだけがネック(刺された日は何とも無いのに次の日から数日間めちゃくちゃ痒くなる)ですが、春の終わり~初夏にかけてがトチのベストシーズンかもしれません。

2019/07/08 (Mon) 10:57 | EDIT | REPLY |   

RYO-JI  

巨樹を見た後の感想は人それぞれで、それがまた面白いのですが、
このトチノキに関しては3人とも文句無しに感動していましたね!
自分が記事にする時も狛さんのコメントをすべてコピペしてもいいかなぁと思うくらいです(笑)。
足場の悪い斜面をかなりウロウロしましたが、それでもずっと樹の下にいる、
それくらいに大きな存在で何より本当に居心地が良かったです。
絶対にまた会いたいと思う一本ですよね。
できれば三脚持参で朝から晩まで時の移り変わりとともに撮り直したいです。

2019/07/08 (Mon) 20:52 | EDIT | REPLY |   

狛  

to-fuさん>
ほんとにそうですね、このトチのためにもう一度つるぎ町に行きたいです。
しかし、相手がトチだけに、それは時期を選ぶ。
落葉する寸前なんかもいいでしょうが、やはり選べるなら、初夏のこの感じをまた見たい。
渡辺センセイの本の写真では冬で、葉っぱが全くなく、気を引かれなかったんですよね~。
もちろん他のトチの巨樹も俄然魅力的に見えてきました。
険しいところばかりの樹種だけに、リサーチと準備は必要ですが……。

僕としては例のカレンダー写真に……。笑
いいもん見た~という実感が得られる素晴らしい巨樹でしたね。

2019/07/08 (Mon) 21:52 | EDIT | REPLY |   

狛  

RYO-JIさん>
そうですね! というか、このトチに文句をつける巨樹ファンがいるとしたら……3人して食ってかかりそうですが。笑
いや、それくらい見どころがある樹でしたね。
トチの他の巨樹もいろいろ見てみたいと思わせてくれました。

結局、写真のタイムスタンプからこの後のスギの分を取り除いても、65分間、我々はこの樹のそばにいたようですが、全然撮り飽きたという感じがしませんでした。
RYO-JIさんのおっしゃる通り、いろんな時間帯の姿を捉えるのもいいかもしれません。
記事を書いていても熱が入ってしまいました。
長くなってしまってすみません。笑

2019/07/08 (Mon) 22:00 | EDIT | REPLY |   

コメント投稿