巨樹を訪ねる 赤羽根大師の大エノキ

shikoku1977.jpg
K-1 mark2 / HD PENTAX-D FA 28-105mmF3.5-5.6ED DC WR

 「巨樹王国」を大胆に名乗る徳島県つるぎ町。
 その筆頭とされているのがこの「赤羽根大師の大エノキ」です。
 調査によって、目通り高さでの幹周囲が日本一だということが判明したエノキとのこと……。
 徳島県をめぐる巨樹行では、もちろん外すわけにはいきません。

shikoku1985.jpg

 ヒヤヒヤするようなつるぎ町内のドライブを小一時間こなし、いかにも尾根というところに鎮座する赤羽根大師に辿りつきました。
 この先車が転回できるのか? という心配続きでしたが、さすがに終点、ここは開けています。
 集会所を兼ねた建物とお堂があり、公衆トイレもある(「日本一のトイレ」と書かれているのかと思って期待したのですが、「日本一の『森』トイレ」でした。トイレ自体は普通の、蜘蛛がいるようなトイレ)。
 ギザギザに切り立った山ばかりの土地で、住民数は限られているでしょうが、やはりこういう集会場は必要なのでしょう。
 この時も、お掃除やお手入れの後なのか、おばさんたちが寄り合いをしていました。

shikoku1976.jpg

 車から降りると、すぐにこの大きな赤羽根大師についての解説看板が目に入ります。
 しかし、長い……多少運転疲れもあって読み飛ばしたくなりますが、頑張って読むと、なかなかのドラマです。
 姥捨山の民話は各地に残っていますが、これもまたそのひとつ……こういうのに出てくる代官はクズ野郎ばかりですね。
 
 六十になった母を捨てるべしとされ、どうしても捨てられずに代官に許しを請うと、「赤い羽の鳥を捕らえてこい」と命じられてしまう。
 現在では六十そこそこでは引退すらさせてもらえないし、赤い羽の鳥なんて募金でもあるまいし……と、まあ、読むと。
 当然赤い鳥など見つからず、途方にくれた村人は、このエノキのお大師様にすがる、願を懸ける。
 すると、エノキの枝に真っ白な鳥が止まり、代官の目の前で……ああ見よ、その羽が今まさに赤々と輝く夕日に染め上げられて!

 お大師様のつかわされた夕陽の赤さは、非道代官のねじくれた心を一発で浄化したのでしょう。まるで別人化。
 話の中でお大師様の依り代的な立ち位置にある大エノキを今も見ることができるとは感慨深いですが、それにしても、「八十八本の巨樹がある一宇地区は……」とは、ほんとなのか。
 お大師様つながりで八十八ヶ所にかけたのかもしれませんが、その総覧的な資料にはいまだ出会っていません。
 が、実際ありそうだ……ありそうだけど、全部巡るのはものすごく恐ろしい目に遭いそうです。

shikoku1986.jpg

 ともあれ、我々もまず、赤羽根大師へのお参りを果たしました。
 簡素な建物の中に収められていて地味な印象の本尊よりも、この壁にかけられた巨大な数珠が記憶に残ります。
 修験道、山岳信仰の流れも組んでここに鎮座しているのでしょうか。ありそうな話です。
 資料によれば、以前はエノキに隣接していたものを、平成17年にこの位置に建て直したとのこと。
 大エノキの国の天然記念物指定が平成16年だそうで、その保護のためだと思われます。

shikoku1982.jpg

 お堂に入る途中ですでに姿が目に入っていますが、こちらがその大エノキ。
 周囲を木道が取り巻いていて、すぐにでも駆け寄りたくなりますが、落枝が多いらしく、立ち入り禁止になっていました。
 よって、ごく限られた角度からしか見ることができませんが、なるほど、さすがに大きい。

shikoku1980.jpg

 エノキは関東にもごく普通に生育している樹で、成長は遅くなく、目印になるため一里塚に植えられることが多いとのこと、巨樹巡りを始めて学びました。
 それほど巨大に育つ樹種ではなく、6メートルもあればかなり大きいと評価していい印象ですが、この樹は、環境庁の計測によって8.7メートルという幹周を計測されている。
 おそらく、樹種別のランキングではダントツのトップなのではないでしょうか。

 全国的によくあることのようですが、エノキとムクノキはよく混同され、この樹もずっとムクノキだと思われていたそうです。
 ムクであれば太いものも存在するのでそれほど注目されてこなかったのでしょうが、平成10年の調査でこれが実はエノキであり、しかも日本一の大きさであると認められた時には、周囲は騒然となったとのことです。
 二重のびっくり、こんなところで日本一が見つかってしまった! 確かに興奮するでしょうね。
 伝承とともに現代のエピソードも豊富で、実に面白いです。

 幹を観察して受ける印象としても、なるほど太すぎるあまりか、エノキというよりはムク、むしろ年経たケヤキのような重厚感すら感じます。
 計測に偽りなしと言った太さを見せつけてくれます。
 
shikoku1981.jpg

 地上2、3メートルくらい、あまり高くない位置で分岐する枝も太い。
 季節柄というのもあるか、表面が鮮やかな緑の苔に覆われており、この印象も新鮮でした。
 書籍の写真ではなぜか冬の赤茶けた印象のものが多かったように思います。

shikoku1979.jpg

 エノキということで、日本一といえどそんなに期待できないかな……とも思っていたのですが、実物を前にすると、おお、これはなかなか……と嬉しくなってきます。
 惜しむらくは、木道を歩いて色々な角度から見ることができないということですが、上を見上げると、それも仕方ないかとしぶしぶ納得します。

shikoku1983.jpg

 そう、幹の立派さに比して、葉の緑がずいぶん少ない。
 もう5月も20日ですから、緑色もピークを迎えていてもいいはずなのに……半分以上枯れ枝と言っていいのではないでしょうか。

 せっかくここまで来たのに、建物すぐ脇の極小スペースからしか撮れないというのは悔しい。
 なんとか活路を見出そうとしたところ、上記の民話の看板の横から土手に登ることができる模様。
 よじ登ってみると、エノキの裏側の姿を見下ろすことができました。
 歩くうちに、実際たくさんの枯れ枝を踏むことになり、落枝は本当なのだと気付かされます。
 他にも菌類の発生も気になり、樹勢が衰えつつあることを実感せずにはいられませんでした。
 つるぎ町発行の資料「つるぎ巨樹王国読本」によれば、樹齢は800年とされ、エノキにしては例外的な高齢であるということなのかもれません。

shikoku1978.jpg

 解説文。
 幹周囲が異なる数値で出ているのは、単純にどこで目通り高さを押さえたかによるのだと思います。
 8メートル以上とされても、見た印象では全く見劣りは感じないし、国指定天然記念物の肩書きにも不満はありません。
 つるぎ町がプッシュしていることで当然回復や保護も行われているはずで、その効果が出て欲しいと願うばかりです。

 関東平野に暮らす自分としては、距離からも険しさからも、なかなかもう一度来れるとは約束できない土地でした。
 どうか今後、勢いを持ち直して、関係報道などで元気になった姿を見せてほしい。
 赤羽根大師にひとつだけのお願いをするなら、今はそれかな、と思うのでした。


shikoku1984.jpg

「赤羽根大師の大エノキ」
 徳島県つるぎ町一宇 赤羽根大師
 樹齢:800年
 樹種:エノキ
 樹高:16メートル
 幹周:8.7メートル

4コメント

to-fu  

日本一のエノキ!ついに現れましたね。
しかし凄まじい場所でした。中国奥地の農村とかチベットとかそんなレベル。
国天指定されるまでムクだと思われたというのは自宅に戻ってから
その筋のサイトを見返していて初めて知りました。
エノキとしては大きすぎるので、ムクと勘違いするのも止む無しという気がします。

一見それなりに健康そうなんですけど、近くでじっと見てみると満身創痍な印象を受けました。
それこそ人間の腕力でぐいっと引っ張っただけでも大枝が折れてしまいそうなくらい。
定期的な治療が難しい土地だとは思いますが、あの土地の守り神として末永く生き延びていただきたいですね。

2019/06/14 (Fri) 17:03 | EDIT | REPLY |   

RYO-JI  

見ごたえのあるエノキでしたね。
周囲環境からすれば台風などの被害が心配ですが、あのタイミングで見られて良かったなぁと。
事前情報をあまり入れない状態で行ったので余計に驚きました。
これが日本一のエノキだったと今さらながら見られたことに感謝です。
で、戻ってきてから知ったことなんですが、寄り合いのおばさん方がいたのは偶然ではないようです。
毎月21日はああやって赤羽根大師を訪れる人をもてなす風習があるらしいです。
ついでに言うと、昨日たまたまツイッターで知ったんですが、つるぎ町にあったポツンと一軒家に出てきそうな家、
あの辺りにはケーブル集落といわれる場所があるようです。
道路は無く、林業に使うケーブルだけが集落へと繋がっている場所だそうです。
もう廃村になったところも多いみたいですが。
いや、ほんと四国の奥深さをいまなお実感していますよ。

2019/06/14 (Fri) 21:38 | EDIT | REPLY |   

狛  

to-fuさん>
つるぎ町内ということなんですが……行くだけでかなりの達成感の土地でしたね。
まさにチベットというか。一般世間からは隔絶されているような感じもありました。

エノキについてはいまいち地味というか、注目していませんでしたが、調べてみると、ぽつりぽつりと巨樹もありますね。
リサーチした感じでムクと違うと思ったのは、なかなか五体満足なムクが少ないのに対して、エノキは幹がしっかりしているものが多そうだなと。
一里塚めぐりみたいになるし、風景的にそれはそれで面白そうです。
この大エノキは、やはり「エノキと言ったらあれだろ!」という象徴的存在として、なんとか勢いを取り戻してもらいたいところですね。
エノキはすごく燃えやすいとのことなので、お大事にしてほしいです。





2019/06/15 (Sat) 08:24 | EDIT | REPLY |   

狛  

RYO-JIさん>
枝がいかにも枯れ枝というか……折れやすそうな感じで、ちょっと心配になりましたね。
自分としては、エノキというのはもっと細くて背が高く立ち上がるイメージで、この樹の太さは本当に珍しいと思いました。
見られてよかったです。

ケーブル集落とは……これまたすごいですね。
検索してみましたが、確かに我々が目にした光景とかなり近いものを感じました。
車道は作れず、吊り橋やワイヤーでつながれただけの集落か……。
ましてや関東平野に暮らしている身としては、とんでもないところだなと思わずにはいられません。
で、そうですか、たまたま21日の寄り合いの時にお邪魔したわけですね!
お茶でもどう? と言われたのは、そのお接待だったのかもしれませんね。

2019/06/15 (Sat) 08:36 | EDIT | REPLY |   

コメント投稿