巨樹を訪ねる 別所の大クス

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K-1 mark2 / HD PENTAX-D FA 28-105mmF3.5-5.6ED DC WR

 徳島県美馬市の市街地からやや東へ進み、吉野川の北岸、堤防のような土手から見下ろす平地に、大きくてスタイルの良いこの大クスがあります。
 本当は進行方向とは逆になってしまうのですが、数キロ圏内にこんな樹があると知ってしまっては、立ち寄らずにはいられません。
 まず、そうして正解でした。
 もし、訪問済みの今の自分が、この樹に立ち寄らないという選択肢をとったパラレル自分に声をかけるとしたら……そんなヤツは僕じゃないと思うんですが、「お前の脳、マッシュポテト」です。
 「別所の大クス」、すばらしいクスでした。
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 最初のヒューマン・スケール写真でもわかっていただける通り、高さ太さと、その立ち姿の美しさにおいて、非の打ちどころがないようなクスの巨樹です。
 3人そろっての徳島・高知巨樹紀行の記念すべき1日目、その1本目を飾るのにまさにふさわしい樹と言えるでしょう。
 実はto-fuさんは前日から徳島入りされており、アクセスの良さからこの樹も訪問済みだったそうですが、「行く価値のある樹ですよ」と勧めてくれました。
 実際、その通り。そうとしか言いようがない。

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 目通り幹周囲は10メートルとのこと。
 クスの巨樹を見ることに慣れてくると、つい相対的に10メートルは普通よりちょっと大きい程度かな……なんて思ってしまうんですが、これって大変なデカさですよ。
 クスという樹種が大きくなりすぎなんです。
 他の樹種で……杉もデカくなりますが、杉で10メートルと言ったら、ほんと限られてきますからね。

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 こうして近づいて見ると、すごい迫力です。
 それでも、さすがはクス、実に危なげなく、普通の顔をして立ってる。そういう感じがしました。
 別段苦労を重ねてものすごい年月を生きてきたってわけでもないし、厳しい環境に苛まれて化け物化したわけでもない。
 おいらは普通にここで元気にやってるけどね、みたいな、そういう若々しさがあります。

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 強靭な根と幹。
 ああ……本心から、この樹が一番最初で良かった、と、そう思いました。
 この時は朝の7時半くらい。
 すがすがしい空気の中で、巨樹がこれから始まる1日を楽しみにしているようにすら感じます。

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 この時期の、クスの巨樹の、森のような樹幹がまたいいんだな。
 九州でもだいぶ早くに車中泊から目覚めてクスの巨樹を見て歩きましたが、あの時も気持ちがよかった。

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 鳥がね、本当にいっぱい来るんですよ。
 それも実にうれしそうにクスの枝の間でさえずっている。
 なんとなくですが、クスの枝にいる時は、彼らの声からも安堵感を感じるんです。
 ここにいれば完璧に安全だー、とか、ここがやっぱ最高ラグジュアリーだぜー、みたいな。
 そう言ってるかどうかはわかりませんが、僕が鳥だったらそう言います。笑
 季節柄、クスも花に見えない花をいっぱい咲かせていました。

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 周囲がひろびろとしており、ぐるぐると回りながら眺めることができますが、どこから見ても力強い。
 そして何より、引きで全体像を眺めるのが気持ちいい!
 吉野川の土手がずっと続いており、ここに登れば、ちょっと上から構図でクスを眺めることができます。
 これはなかなか……特別な眺め。

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 同じ立ち位置からもう一枚。
 比較対象が車とか電柱とかお隣の2階家だなんて、すげえなあと思うんですが、どうですか、この立ち姿の巨大さは。
 太くても低いということはなく、実に理想的なプロポーションに育った大クスです。
 お隣のおうちは毎日こんなクスが見られてうらやましいですが……そんなことを考えるのは巨樹ファンだけでしょうか?
 実際は日当たりが悪かったりするし、落葉落枝もけっこう面倒かもしれませんね。
 九州で大クスを見た時、近所のオバちゃんが「あんな馬鹿でかい樹のせいで花火もなんも、ぜーんぜん見えん! まっくら!」とお嘆きだったのを思い出します。

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 しかし、ここまで大きくなれたのも、周囲がひらけたままなのも、近隣の方々の理解や尊敬を集めているからでしょう。
 この存在感と周辺の印象は、福岡県八女市で見た「鈍土羅の樟」を思い出し……あれも巨大な一本クスで、また早朝会いに行きたいなあ、こういうクスっていいな、と思うのでした。

 気分が高揚してくるとともに、この1日も次第に本調子になってきたような感じがありました。
 さあ、やるぞー! みたいな。
 クスからもそんな生命力が噴出していたように思います。

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 1本目から堪能してしまいましたね。
 これが地元だったら、この1本で十分すぎるほど満足し、早く写真編集に取り掛かりたい! と思ったことでしょう。
 しかし、この日はこれからが始まり。
 どれだけ深いところに踏み込むか、不安さえ感じるほどです。
 もっと見ていたい、この場にゆっくりいたい……と、後ろ髪を引かれるように、その場を後にしました。

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 解説文。
 やはりクスは巨大化する樹種、この樹でも徳島で6番目です。
 ということは、全国規模の主たるランキングでは発見できなくなってしまう……。
 まあ、まあ、見所は数値だけではありません。
 この健全さ、美しさでいったら、これだけのものには九州ですらなかなか出会えないでしょう。

 根元には、おいなりさんならぬ、おたぬきさんの祠があるんです。変わってます。
 火術の名手で、花火をあげたり、戦争に加勢したり……伝承もユーモラス。
 さらに帰り際、車を出したら、目の前をそのタヌキが駆け抜けていくんだから、バッチリです。
 アクセスもしやすいし、もう一度会いに来たいクスとなってくれました。


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「別所の大クス」
 徳島県美馬市脇町別所
 樹齢:600年
 樹種:クス
 樹高:30メートル
 幹周:10メートル

4コメント

to-fu  

こうして改めて見返してもクスの巨樹として実に模範的な姿ですねえ。
周囲が開けていて樹形も樹冠も美しい、地域に愛されている感もある。
(駐車場の「クスを観る奴だけはここに停めることを許可する!」な看板が素敵です。)
クスノキの巨樹の良さがこの1本に全て詰まっているように感じます。

いやホント、これが近所なら直帰してすぐに大画面モニターでニヤニヤと写真を堪能したくなりますよね。まさにスタートの1本に相応しい、幸先良い巨樹でした。RYO-JIさんの目を覚ましただけのことはあります 笑

2019/06/05 (Wed) 13:59 | EDIT | REPLY |   

RYO-JI  

ええ、ええ、そりゃあ目が覚めますよ、こんなスゴイ巨樹を見てしまっては(笑)。
冗談抜きでこれ見て一気に覚醒しましたからね。

そしてこのクスの元にいる時の心地良さと言ったらもうサイコーとしか言えません。
立ち姿の美しさは言うまでも無く、周囲の環境や、風にそよぐ葉のこすれる音、
鳥の声(間違いなくリラックスして)なんかが綯い交ぜになって。
行きかうJKにも挨拶されたんですが、それもこれもクスの存在がそうさせてしまうんだろうと思いましたもの。

旅の一本目に相応しい、というかこれ以上の出だしはないんじゃなかというくらい良かったです!

2019/06/05 (Wed) 21:56 | EDIT | REPLY |   

狛  

to-fuさん>
そうですね、クスの巨樹には巨人とか神様とか、いろんな方がいらっしゃるわけですが、この樹はまさに優等生って感じです。
それほど満たされた環境で育ってきたと言えるのでしょうね。
これがもし茨城県にあったとしたら、事件ですよ。
観光資源が少なくてネモフィラしかないと思われてる県ですから、もう、なんとか観光スポットにしようとするんじゃないかと。
ちょっと戻り路のところ、あえて立ち寄って本当によかったと思います。
また見に行きたいですね。

2019/06/06 (Thu) 09:06 | EDIT | REPLY |   

狛  

RYO-JIさん>
そういえばそうでした。RYO-JIさんは朝、ちょいと辛かったことでしょうね。
この樹を見に行くということは、いいウォーミングアップに……ウォーミングアップには豪華すぎですが、目が覚めること間違いなしですよね。
ほんと、1本目から立ち去りがたかった。

周囲の人間模様もきっと健全なんじゃないかと、僕も感じました。
皆で共通のものを見て、それに尊敬を抱くということは、やっぱり尊いことです。
巨樹がやがて信仰対象になるということも自然なのだと思いました。

で……この後、例のスリルドライブに行くわけですが……笑

2019/06/06 (Thu) 09:10 | EDIT | REPLY |   

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