巨樹を訪ねる 野神の大センダン

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K-1 mark2 / HD PENTAX-D FA 28-105mmF3.5-5.6ED DC WR

 ついに決行となった四国巨樹探訪。
 2019年5月20日、フェリーで車ごと徳島入りを果たしました。
 同志であるto-fuさん、RYO-JIさんと合流する前の半日、単独で訪ねたのがこの樹でした。
 街中から近く、国指定天然記念物というステータスを持っているという点も気になりますが、それ以上に、センダン(栴檀)という樹種に興味を惹かれました。
 「野神の大センダン」です。

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 まずまずの知名度がある樹なので、グーグルマップにもしっかり載っています。
 センダンで国指定の天然記念物になっているのは、この樹と香川県の「琴平町の大センダン」だけだそうなので、それも頷けます。
 ちょうど地図上の進む先にこの樹の記載を見つけ、これは行ってみるしかない! と、それだけで決めており、どんな巨樹なのか、あまり調べませんでした。

 小学校の裏手、幼稚園との間に生育している。
 街中で、車を停めるところがなさそうだし、小学校のすぐそばというのは運転者からすれば地雷原もいいところです。
 近くに公民館があるのを見つけ、もうここに置いていくしかないと決めました。
 国の文化財を見学に行くのに協力してくれない公民館なんてないし(断言)、これまでも公民館の人たちはみんな良い人ばかりだったのです。
 (こちらの公民館は無人でした)

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 小学校の横の道を進んでいくと、奥に大きな樹があることにすぐに気づきます。
 間違いない……とさらに進むわけですが、ちょっと意外なことに、何か白いモコモコがついています。
 なんだあれ……花か? センダンって、あんな風に花が咲くんだ!
 と、いい時期に来られたことに喜んで、思わず駆け寄ってしまいました。

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 ここまで近づくと、ほのかに甘い香りが風に乗って漂ってきます。
 品があって、とてもいい匂いです。

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 これがセンダンの花。
 ついでに、葉はこのような感じです。
 緑が鮮やかで、全体的にフレッシュな感じを抱かせます。
 実もなりますが、サポニンが多いため、人が食べると中毒を起こす。
 しかし、センダンの実や葉には薬効があることも知られており、最近ではインフルエンザに有効な成分も見つかったそうですよ。

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 花や葉から入るという珍しいパターンでしたが、「野神の大センダン」はこのようなスタイルの巨樹でした。
 太い……幹周としては8メートル弱あるので、見ようによってはかなりの大きさです。
 しかし、もはや大枝は左右に2本しか残されていない。
 枝や葉もめっきり少なくなってしまった、もう後が無いという感じです。

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 永く生きる樹には様々な苦難がふりかかり、幹が損傷したかと思えば、根元の土が流れたりもし……そうしていくうちに、死んだ細胞を中心に抱え続ける樹木は、空洞化してしまう。
 
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 「生きている部分」のみの姿に近づいても、もちろん樹は生き続けますが、それでは立ち続けることができない。
 この樹も、外側のみでかろうじて立っているような格好でした。
 8メートル近い幹周は、過去確かに存在していた。
 それが今はシルエットとして残っているだけのような……治療痕だらけの、触ると崩れそうな表面を見ていると、ちょっと辛くなってきます。

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 残された大枝。
 この太さもかなりのもので、センダンとして日本有数の規模の樹だったことは確かだと思われます。
 が、樹皮が剥がれ落ちはじめており、補強やウレタン系の充填なしではたちまち失われてしまいそうです。

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 反対側にも、たいそう大きな枝が付いていた痕があります。
 かつてはきっと広い面積を覆う、傘のような樹形だったのではないでしょうか。
 上背が高かったように思えないところ……早い段階で落雷か強風で折れを経験してしまったのでしょうか。
 とにかく、失われたものが多すぎる樹で、想像で補うのもなかなか難しいところがありました。

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 反対側から。
 そうとは言え、人間の施す「医術」にも相当な効き目があると見え、徐々に崩壊しながらも新しい枝をつけていることがわかります。
 このタイミングで来ることができてよかったと思います。
 この姿……この巨樹が握る生命力が最大限に発露された姿を見ることができたわけですから。

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 裏手は、現在進行形で整備が進んでおり、公園のようなスペースが作られています。
 この樹を中心とした憩いのスペースのような構想でしょうか。
 道路側はどうにもできないでしょうが、自治体はこの樹のことを考えているんだなと感じました。
 (一方で、駐車場がないとかでグーグルのレビューで星1とかつける奴はなんなのでしょう?
  ……いや、レビューが低い方がむしろそっとしておいてもらえて、樹にとってはいいかもしれませんね。笑)

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 足元には昭和38年の石碑文がありました。
 この頃から根元は空洞だったと書かれていますが、「一見名盆栽の観を呈する」などとあり、やはりこの後、樹勢が失われていったことが読み取れます。
 剣山に登る修験者の目印の樹だったことも書かれていますね。

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 珍しいセンダンの巨樹であり、国指定天然記念物なので、新設の解説もありました。
 センダンについては「栴檀は双葉より芳し」ということわざから、「優れたものは幼少時から優れている」ということで、小学校などに植えられることがあるそうです。
 しかしこの場合の「栴檀」は中国でいう「白檀」のことで、あの強い香りを作る白檀は、この巨樹の樹種・センダンとは別種のものです。
 センダンをビャクダンと混同する、さらにはビャクダンとビャクシンを混同し、こんどはセンダンとビャクシンが間違われる……とか、いろいろこの界隈はややこしいです。
 こうして実際にセンダンという樹種を花まで見ることができて、すごくいい経験をもたらしてくれました。

 この後、徳島をいろんな方向に走り回りましたが、いく先々でセンダンの花を見かけ、わりと自生しているものなんだな……と、見るたびこの巨樹を思いました。
 ここからの劇的な回復は見込めないかもしれませんが、また何度も、このいい匂いの花を咲かせてほしいものです。


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「野神の大センダン」
 徳島県阿波市阿波町野神
 樹齢:300年
 樹種:センダン
 樹高:11メートル
 幹周:7.85メートル

6コメント

to-fu  

実は僕も単独行動の日程のメインに据えていたのがこの巨樹でした。
もう20日なんか、この巨樹に会うことを中心に予定を無理やり組んだようなもので…

正直言うと琴平町のセンダンが立派だっただけに、ちょっと気持ちが沈んでしまいました。
いつも見ている先輩のサイトを見る限りだと、まだそれなりに立派だったんですよね。
こちらです → http://www.hitozato-kyoboku.com/nogami-sendan.htm

狛さんが仰っていたように100年前…いえ、せめて巨樹のパイセンが訪れていた
10年前にでも訪問できていれば印象も随分違ったのかな?という気がしています。
せめてもの救いだったのがまさにこの咲き誇るセンダンの花です。
おかげさまで香りもその姿も強く脳裏に焼き付いています。

2019/05/26 (Sun) 11:18 | EDIT | REPLY |   
狛

狛  

to-fuさん>
考えてみれば、地図本位でツーリングマップルの記載だけで行くことを決めており、いつもの巨樹おじさんのサイトも見ていませんでした。
なるほど、こうして見ると今よりもまだ元気がありますね。
だんだん風前の灯となってきているように感じる姿です。

そう、僕らが来るのが遅かった、そう言うしかありませんね。
十何年か前に四国に来ていますが、もちろんその頃は巨樹のことなど意識せず……いや、見たとして今回ほど中身のある訪問ができた可能性は0%ですね。
偶然とはいえ、花の時期に来ることができて本当によかったと思っています。
また西日本でセンダンの花を見かけたら、きっとこの巨樹のことも思い出すはずです。

2019/05/26 (Sun) 20:55 | EDIT | REPLY |   

RYO-JI  

痛々しい姿なのに華憐な花を咲かせている様は、アンバランスですがまだ生きていることを実感させてくれますね。
落葉している時期に見てしまうと、もう悲しいだけでしかないかもしれませんね。
でもこのセンダンが一番活き活きしているタイミングで見られたのは本当にラッキー。

剣山に登る修験者の目印の樹だったと・・・。
スマホでナビれる時代ですから樹が目印という感覚はわかりにくいのかもしれませんが、
我々のようにアチコチの巨樹を訪ねているとよく見聞きしますし、
当時のことが連想できて妙に納得してしまいます。
これだけの巨樹ですからそりゃあ目印になるわなぁと。
その時の姿からは大きく変わってしまっているのは残念ですが、
だからこそ見れるうちに見ておいた方がいい巨樹ですね。

2019/05/26 (Sun) 21:37 | EDIT | REPLY |   
狛

狛  

RYO-JIさん>
そう、真冬などに訪ねなかったこと、本当に良かったと思います。
これで葉も花もないという状況だったら、かなり落胆を感じただろうと思います……。

目印の樹にはちょくちょく出会いますよね。
当時は周囲にほとんど何もなく、遠くからもよく見えたということだと思います。
今回味わったように、こういった巨樹の枝の下はすごく涼しいし、休憩場所にももってこいだったと思いますよね。
逆に言うと、そんな時代から、この同じ生命がずっとここにい続けているのだなあ……と感慨深いです。
もちろんもっと元気な時に見たかったですが、会えて良かった巨樹だったと感じました。

2019/05/27 (Mon) 08:52 | EDIT | REPLY |   

さかした  

神社でこの時期に見かけた花はずっと何の花かわからなかったけど狛さんの記事拝見してわかりました。
栴檀だったんだ。
ありがとございます。これでゆっくり眠れるw

2019/05/27 (Mon) 21:39 | EDIT | REPLY |   

狛  

さかしたさん>
あまり関東では見かけない樹種ですよね。
僕もこんな花が咲くとは思ってもいなかったので、幸運な出会いだったなと感じました。
いい匂いですよね、この花。
気になるけどわからない木ってけっこうあるので、こうしてイコールで結ばれるのは嬉しいことです。笑

2019/05/28 (Tue) 10:10 | EDIT | REPLY |   

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