巨樹を訪ねる 沓掛ノ大欅

bando1817.jpg
K-1 mark2 / HD PENTAX-D FA 28-105mmF3.5-5.6ED DC WR

 茨城県坂東市、沓掛(くつかけ)香取神社から2、300メートルほど進み、今回の坂東市の本命巨樹と定めた「沓掛ノ大欅」を訪ねました。
 シイやタブではなくケヤキが多いことからも、ここがもはや海風と無縁の地であることを再認識します。
 その中でもひときわ目立つ大きさを誇り、茨城の西側を代表する巨樹と言えるでしょう。

bando1811.jpg

 神明社という神社にあることはわかっていたのですが、地味すぎてカーナビやマップアプリで表示されないようです。
 前述の沓掛香取神社を起点にして番地から推測して歩くか、大欅自体を紹介するページでマップにリンクされているものもあるので、それを頼りに行くことができるはずです。
 車を停めるところがないのでコンビニでお菓子を買って(勝手に)少し置かせてもらい、徒歩で移動します。 
 が……少し行ったところ、向こうの畑の中に、明らかに異質かつ巨大なシルエットが出現します。
 あれだろ。
 絶対に、そう。

bando1814.jpg

 神明社というのはこぢんまりとした神社で、大きな敷地を持つ沓掛香取神社とは大違いでした。
 どうやら地元の方の氏神様として祀られたものらしいです。
 しかし、御神木の巨大さではこちらの方が一枚、二枚くらい上手。
 というか、お社の前に立ってもはみ出して見えてるんですが……。

bando1818.jpg

 勿体ぶらないで引きます。
 隠れないどころか、お社の方が大欅の付属物のように見えてしまう。それが実際です。

 このケヤキ……想像よりはるかに大きいぞ。
 データで幹周囲が8メートルを超える(ほぼ9メートルという表記もある)ということは読み知っていましたが、載っているのがどれも幹を撮影した写真ばかりで、どんな姿をした樹なのかがわからなかったのです。
 もちろん、「ケヤキの巨樹と言えばこう」というような一般的な想像図があるわけですが、この樹はそれとはかけ離れた姿をしています。
 遠方に影のような姿が見えていた時から、えっ、あんな樹なの? と意外に思ったのです。
 こんなに樹高が高く、変わった案配に横方向にも展開しているとは……。

bando1815.jpg

 とりあえず近寄ってみます。
 ケヤキのあるところはちょっとだけ高い築山みたいになっていますが、茨城県教育委員会によれば、一帯からは先史時代の土器などが出土しており、この場所自体も古墳的なものだった可能性があるそうです。

 幹の巨大さはさすがの一言。
 目通り9メートル近いと言われても何の疑念も抱きません。
 目の前が岩壁のような幹で全て塞がれてしまう、この圧倒的威圧感はケヤキの巨樹ならではのものです。
 しかし、大きく引き裂かれたような跡があり、半分がた枯死しているように見えます。

bando1812.jpg

 違う方向に回ってもやはり中央部が枯れています。
 落雷か台風か、真ん中にあった幹がものすごい規模で大破した跡なのでしょう。
 腐らず、全体が黒ずんだ色になっているところを見ると、過去に何かの手当が施されているのではないかと思います。

bando1813.jpg

 しかし、この樹はまだ死んでいません。
 左右から生えている幹は樹皮や枝葉もしっかりしていて、十分に生命感を感じさせてくれます。
 それどころか、こちらは樹高がかなり高い。30メートル以上も立ち上がっています。
 おそらくは最初から複数に分岐した樹形だったのではないでしょうか。
 中央部がなくなってしまったせいで、残された部分が一気に伸びていったのでは。

bando1820.jpg

 対照的に、右側の幹(大枝?)は横這いに大蛇のようにうねって伸びていっている。
 どこかケヤキらしくなく、怪物じみたクスの巨樹を思い出させるような全体図を描いています。
 こうなってから久しいのか、そこから垂直方向の枝々が発達し、それぞれがケヤキの若木のように育ちつつあります。

bando1822.jpg

 幹と言えばいいのか、枝と言えばいいのか……こちらも恐るべき巨大さで、その重量を支えるためにいかつい鉄骨の構造物が2つもあてがわれています。

bando1821.jpg

 どうしてもこの下をくぐっていくわけですが、樹の枝をくぐっているというよりは、高架の下をくぐっているかのような……いや、それにしては異形であるわけなので、ジェットコースターみたいなアトラクション建造物の下にいるようにさえ感じました。
 特有のスリルがあったのかもしれませんね。

 朽ちたる巨樹ということは知っていましたが、それがこんな見せ方をしてくるなどとは、予想もしていませんでした。
 根幹の巨大さ、朽ちているが迫力あるディテール、垂直方向に立ち上がっている幹の高さ、水平方向へ伸ばしている幹の長大さ……と、極めて要素の多い樹というのが実態で、的確に1枚の写真に収めることについては匙を投げるしかありませんでした。
 樹の規模に比べたら、この場所も狭いと言うしかない。
 背後の畑に踏み込むわけにはいかないし、目一杯下がってローアングルで狙ったとしても、全く太刀打ちできません。

bando1825.jpg

 ……と、苦戦しているところへ軽トラが到着、地元にお住まいのおじさんがおいでになりました。
 地区のみなさんでお社とケヤキのお世話をされており、今日も見回りに来られたそうで。
 ケヤキを撮りに来たと伝えると、色々お話を伺うことができました。 

 曰く。
 この樹を見に来る人が最近少しずつ増えているそうで、できれば印象良くしたいと願って、草刈りや掃除などをされている。
 しめ縄も、昔は立派に編んで作っていたが、その作法を知っている人が死に絶えてしまい、申し訳なく思いつつ荒縄を束ねて代用している。……

 言葉の端々に大欅を誇らしく感じておられることが伺えましたが、今年の夏の台風で大枝が折れてしまったのだそうです。
 上の写真に写っていますが、折れた箇所がむき出しになっています。
 加えて、樹がもたらす大きな荷重がかかったまま振動したせいもあり、老朽化した鉄骨にガタが来ているそうです。

「プロの人に見てもらったんだけど、この樹と支柱の処置で、120万以上かかるらしいんだよね……」
 県の天然記念物なので、県から半額(60万)くらいは出るらしいですが、それでも地区会ではなかなか実現が難しく、このままになってしまっている……と嘆いておられました。
 もちろん、僕のお財布に余裕があるなら進んで名乗りを上げたいところですが……悲しい哉。

 巨樹は他を圧倒して大きいからこそ価値を感じるものですが、大きいがゆえに悩ましいことがある。
 立派であればあるほど苦労も負担も多い。文化財であるので簡単に手放すこともできない。ましてや生き物である……。
 そんな手がかかる存在を見限らず、代々、何百年も大切にし続ける。
 本当に頭が下がる思いで、大ケヤキに賞賛を贈るとともに何度もお礼を言わずにはいられませんでした。


bando1823.jpg

 無傷の時は果たしてどれだけ立派な巨樹だっただろう……。
 そうも思うのですが、今のこの姿もかなり凄まじく、一見の価値は十分にある巨樹だと思いました。

 その豪快な成長力ゆえに自重崩壊してしまう巨大ケヤキですが、傷を負ってからも持ち前のタフネスで魅せてくれるものは多い。
 その点で、この「沓掛ノ大欅」も、「泉福寺の大ケヤキ」「高瀬の大木」などに続いて、ケヤキの在り方や生き様を見せつけてくれる巨樹だと言えるはずです。

bando1824.jpg

 もう完全に夕方。
 大ケヤキは、破損した部分を陰影の中に隠しつつ、長く伸ばした枝に散る前の葉を揺らしていました。
 この樹がまだまだ生きるつもりであることは疑いようがなく、地区の方々も、それを理解して懸命に取り組んでいるのだと思います。
 県内にこんな面白い樹がまだあったとは。
 茨城の代表的巨樹のひとつとして、是非とも自慢したいと思ったのでした。


bando1816.jpg

 「沓掛ノ大欅」
 茨城県坂東市沓掛 沓掛神明社
 樹齢:300年以上
 樹種:ケヤキ
 樹高:30メートル
 幹周:8.9メートル

6コメント

to-fu  

このケヤキは某先輩のログで見て知っていたものの、樹勢があまりよろしくなさそうだったので前回はスルーしてしまったんですよ。いやいや。確かに樹勢は芳しいとは言えませんが実に立派なケヤキではありませんか。ここまで葉の茂った生命感ある姿だとは思いませんでした。それこそ泉福寺の大ケヤキなんかと比べるとまだまだ行けるだろ!という力強さを感じます。何で自分は下妻ルートなんか選んでしまったんだろう!(自分もそこでとあるケヤキを見てきたんですが、まあ記事にしていない時点で察して下さい。)

天然記念物や重要文化財はもっと国が力を入れて守ってくれてもいいんじゃないかと思いますね。一度損なわれてしまったら二度と戻ってこないものばかりですから。僕も巨樹巡りをしていて費用面での苦悩を各地で耳にします。本当、石油でも掘り当てたらまとめて面倒見てあげたいところですが、今のところそんな予定もありませんからね…

2018/12/16 (Sun) 19:13 | EDIT | REPLY |   

ぴよ社長  

すごい木…


この折れた大枝や剪定した枝を使って
『ご神木沓掛ノ大欅のお椀』
『ご神木沓掛ノ大欅の夫婦箸』
をちゃんとした木工職人に作ってもらい
なぜこうなったのか、いわれを素敵な物語にし
寄付のお値段込みで高く売るのです。
地元マスコミにも取材にきてもらいましょう。

って、そういう商売はすぐ思いつく
悪い ぴよ社長…

でも、そうすれば40万は稼げるんじゃない?
残り20万は有志者の寄付で。
こんなすごい木、助けたいですよね。
狛さんなら、できそうな??

2018/12/16 (Sun) 21:45 | EDIT | REPLY |   
狛

狛  

to-fuさん>
この樹はそこそこ知名度がありそうで、僕も書籍やサイトでは見かけていました。
そう、そして後回しにしていた。苦笑
老樹や傷ついた樹に対する先入観を拭うことができるという点も、今年の自分の進歩かも。
……なんて言いますが、この樹が発する印象深い気配や生気に遅ればせながら勘付けるようになっただけなんでしょうね、きっと。
傷んでいることは確かですが、まだまだ俺には生きる術があるんだぜ、生きるためだったら何だってしてやるぜ、と言わんばかりのダイナミックさを感じ、壮観でした。
この樹からまたケヤキの巨樹を見る目が変わりそうです。
茨城西部に縁もあることですし(と言っていいですよね?笑)、機会があればto-fuさんにもぜひ訪ねて頂きたいです。

ほんとそう、損なわれたら元に戻せないから天然記念物なんですよね。
でも、田舎の自治体の財政が厳しいのもわかる……。
そうなってくると、東京都のオリンピックやら豊洲やらの浪費、ゴーンサンの天文学的お給料など、メディアに飛び交うお金の額が余計に虚しく響いてきます。
あれの何パーセントかでいいんですけどね……。

2018/12/17 (Mon) 07:23 | EDIT | REPLY |   
狛

狛  

ぴよ社長さん>
おお、さすが社長……と唸りました。
いやもちろんケヤキですから用途は多いし、折れた枝も勿体ない。
そうはすぐに思うわけですが、具体的に言葉にしてもらった途端、ぐるぐると考えが回り始める思いでした。
そういうニッチなことにこそインターネットで賛同を集めるべきではないか。
やり方次第で、それを加工する人の価値も乗せられるものではないか。
……と、いろいろ。

実は、この時のおじさんともケヤキの生かし方/活かし方について話したのを思い出しました。
この樹も傷む前には巨額で譲って欲しいと何度も言われたことがあった。
それを守って天然記念物にしたら、今度は地元の人たちでも勝手にいじることができなくなってしまった、など。

各地でそういうもどかしい例を目撃しますが、だから何もできない、見てるだけというのも、そろそろ抜け出したくなってきましたね。
手順が必要ならどういう手順が必要なのかとかも含め、勉強してみたいと思いました!
すぐに成果が出なくても、絶対意味があることですもんね。

2018/12/17 (Mon) 08:15 | EDIT | REPLY |   

RYO-JI  

狛さんの口振りから、なんとなく茨城県は巨樹不毛の地というイメージを持っていたんですが、
完全に騙されました(勝手に思い込んでいただけですが)。
県内にこれほどの巨樹があれば、絶対に自慢したくなりますね。

初見から自分もあの専福寺のケヤキを思い出しました。
大きく傷つきながらも、その圧倒的な生命力を目の当たりにして尊敬の念すら感じてしまいそう。
特に横に大きく傾いた幹?に目を奪われます。
不屈の闘志・・・そんな言葉が頭に浮かぶくらい強い意志が姿に現れているようで。
だからこそ、なんとかしてあげたいですね。
訪問者である我々ですらそう感じる訳で、地元の方々は本当に心苦しいでしょうね。
オリンピックや万博での費用の一部でも回して欲しいなぁと思わざるを得ませんね。
もしくは、ネーミングライツを導入して、どっかの企業に出資してもらったり。
沓掛ノ大欅改め、茨城銀行の大欅とか・・・。
うーん・・・処置はできそうですが、しっくりきませんね(汗)。

2018/12/17 (Mon) 21:04 | EDIT | REPLY |   
狛

狛  

RYO-JIさん>
これも今年の動きですが、わが茨城もなかなか巨樹に恵まれた土地だということがわかってきました。
いや、超弩級の巨樹こそ有しないものの、中堅クラスでは個性派の役者が揃ってるという、そんな感じです。
マニア受けしそう。笑

こういった傷ついた巨樹というのは、見に行くかどうか迷いますね。
実際両方の経験をしたことがあるわけで……。
それでもトータルで考えた場合、得たものの方が多かったようにも思われます。
やはり気になった場合は自分の足と目で確かめに行かないとだめですね。
この樹は豪快で面白みもある良い巨樹でした。

持続的な世話ではなく、お金を出すから大きな処置を一度だけせよと言われたら、バッサリ切られてしまうことになるのかも……。
実際、改めて見てみると、この折れた枝だけでも相当な大きさです。
2トントラックで運べるかどうか……。
次同じことが当分起きないようにと想定してしまうかもしれません。
それよりは放っておく……と考える人もいるかも。

最近目にするそういうの、ネーミングライツって言うんですね。
コンビナートの企業とかは金持ってそうだから、やってくれないですかね。
思いっきり環境に悪そうな重化学工業の会社とかが。笑

2018/12/18 (Tue) 08:52 | EDIT | REPLY |   

コメント投稿