巨樹を訪ねる 不思議な泣く木

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K-1 mark2 / HD PENTAX-D FA 28-105mmF3.5-5.6ED DC WR

 記念すべき北海道の巨樹第一弾……というには行き当たりばったりな決め方をしてしまいましたが。
 しかし、個人的に、まさに北海道らしい、北海道でしかあり得ないと思ってしまうような樹を見つけてしまったので、途中で高速を降りない訳にはいきませんでした。
 その名も「不思議な泣く木」。
 独りで今も佇む、いわくつきのニレの樹です。

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 北海道は広い。
 この大自然ゆえにとんでもない巨樹がホイホイ出て来そうなものですが、広すぎるのか、情報はかなり少ないのです。
 移動距離が長いため、その過程で寄れるものがあれば是非寄りたいものだと思って地図を読んでいたところ、無視して通り過ぎるのが到底不可能な案件が出現。

 「切ると泣く木」。
 なんでも、道路を作る工事の際に再三切ろうとしたが、その度に泣き声をあげるため、ついに切られないで残された樹だという……。
 怪談奇談の類はマニアの域の僕です、こういう樹があることはもちろん知っていましたが、それに出会う機会が巡ってくるとは。
 しかも、巨樹を見ていて……なるほどというか何というか、因果なものです……。

 当地の秋景色と言ったら、冬枯れにいじけるしかない関東人を驚愕させるのには十分すぎます。
 停まって撮ってを繰り返していたらあっという間に薄暗くなってしまい、おそらくここ、とナビにポイントした地点も通り過ぎてしまって不安になり……。
 と、そんなタイミングで、ひときわ大きな一本立木が路肩に出現したのです。
 何やら解説板のようなものもすぐに目に付く。この樹です。

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 空気もどんどん冷えてきているし(気温は15時の時点で10℃ほど)、暗くなってきたら少し怖いかも……そんなことを考えながら車から降り、近づいてみます。
 樹種は、ハルニレ。
 地図でその名を見ただけで行こうと決めてしまったわけで、それが巨樹なのかどうかも定かではありませんでした。
 そのことに今更思い当たるわけですが、目の当たりにすると、目通り幹周3メートルという巨樹の基準はどうやら満たしてくれていそうです。

 周囲の光景が写っているうちに説明しますが、この樹を指して「木が切れず道路が木を避けて奇妙に曲がっている」などと書いている記事を見つけましたが、曲がっていません。誰しもスピードを出すようなストレートです。
 おそらく他の話と混同したのでしょう。それっぽく書いただけのものが独り歩きしていくのは、フォークロアのお約束。
 書いて載せるなら、せめて自分の目で確かめに来いよってもんですが、まあ、そういう連中はグーグル取材で満足するんでしょうね。
 話を戻し……

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 えっ!?
 巨樹だと嬉しくなったのもつかの間、近づいてみれば、幹はとんでもない有様です。
 ど、どうしたんだこれは?
 
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 切ろうとして切れなかったと言いますが、これはその時に負った傷ではないでしょう。
 砲撃でも食らったかのような瀕死の大怪我です。
 一瞬、別の樹がくっついてるだけか? と思いましたが、よく見てみると、これは明らかに大きな主幹が大破した姿だとわかります。
 
 樹種は「ニレ」とありますが、ニレというのはイコール「ハルニレ」のことです。
 日本にはハルニレ(春楡)、少し小柄なオヒョウ(於瓢)、関西にあるというアキニレ(秋楡)の3種があります。
 ハルニレが一番大きいのですが、そのハルニレの中でもこの樹はかなり大きい方だと思います。
 実際、大半が吹っ飛ばされたようなこの穴が埋まっている姿を想像すれば、今回の北海道行でこれ以上に大きいハルニレを見た覚えはありません。
 他の樹の例と比べて考えるに、この大きさになるには、少なくとも2〜300年は経ているのではと推測します。

 ちなみに、上の写真で手前に黄色がかった葉を出しているのは、すぐそばに生えた別種の樹です。
 おそらくダケカンバだと思います。
 
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 この痛々しい姿に、地元の方が供えたらしき酒瓶などがさらに凄みを加えています。
 足元には砕け散った樹皮や残骸がまだ残っている……。
 もしかすると、ここまでの状況になったのは最近のことなのでしょうか。
 傷んできた部分を人為的に引き剥がしたのかもしれません。

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 この樹が孤立している状況、そして傷跡からしてもすぐに予想できますが、これは落雷の傷ですね。
 頭頂部も主幹が折れ、枯れている。
 ずっと上からまっすぐに引き裂かれ、燃え上がったようです。

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 焼け焦げています。
 これまでに見た落雷の被害の中で一番ひどい部類かもしれませんね……。

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 しかしながら、まだまだ健気に枝を茂らせ、葉を黄色く色づかせているところが、今も生きているぞと告げているかのようです。
 それでもこの重傷、いつまで立っていられるかはわからない。

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 そして、この樹がこの樹である由縁。
 こんなお話をどうぞ……。

 切ろうとすると泣き声をあげ、どうしても切ることができない樹。 
 こういう話は日本各地に存在しますが、開拓という人間本位な目的で樹を切ることが多かった北海道では、特にこの話によって自然対人間、もっと言えば地霊対侵入者という図式が浮き彫りにされているようでもあります。

 手持ちの本(その手の話の本)からも、この樹の他に「北海道T郡の怨念の楡の木」「夕張郡栗山町の泣く木(カーブが避けているというのはこの樹らしいが、現存しない)」などというのが拾えます。
 どれも切ろうとすると泣くような声が聞こえ、場合によっては機械が壊れたり怪我人が出て、工事が中断されてしまうという。
 そして不気味なことに、どれもがニレの樹なのです。
 これが何を意味しているのか……。

 もしかすると、科学的な説明などつけない方が良いのかもしれませんが、巨樹を見るということの半分がロマンだとすると、残る半分は間違いなく科学的視点だと思います。
 そういう意味でも、必ずこの両解釈が同時にあるべきだと思うのですね。

 で、曰く……ニレという樹は身がしまって硬いため、ノコギリで引こうとするとすごく嫌な音を立てる。
 そして、それこそ巨樹クラスの樹を無理に切ろうものなら、機械も壊すし、怪我人も出やすい。
 丸ノコやチェーンソーを使ったことがある人はすぐに想像できるでしょうが、節や芯材に当たってキックバックすると大変危ない。
 ましてや、未開の地で巨木を切ろうという時に、人が泣きわめくような声を聞いてしまっては……気が動転して、犯すはずのないミスを犯してしまったかもしれません。

 アイヌの悲しい物語は後付けであることが明記されていますね。
 しかし、この樹と結びつけただけで、このような話も別に、実際あったのかもしれません。
 上記の3本とも、心中や無念の死と結びつけられ、その魂や念が宿っているとされています。
 北海道という土地は、いろいろなことを考えさせます……。


 怪しい話はあれど、いわゆる怖いタイプの樹ではなくて良かったです。
 しかし、この辺りは1月の最低気温の平均がマイナス18度という厳しい環境の土地です。
 いつまでこの伝承とともに立っていてくれるものか……。
 偶然にも知ることができ、訪ねることができて良かったと思いました。


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 「不思議な泣く木」
 北海道勇払郡占冠村
 樹齢:200〜300年?
 樹種:ハルニレ
 樹高:20メートル程度
 幹周:3〜4メートル程度

4コメント

to-fu  

一発目から北海道らしい巨樹が来ましたね!
ハルニレの巨樹はまだ見たことがありません。北国にしかないイメージでしたが、静岡と神奈川に1本ずつあるんですね。それが南端みたいですが。やはり巨樹を巡る者として、僕もこの目で見ておきたいです。

落雷で燃えてしまった箇所を引き剥がしたんでしょうか。北海道の樹木保護事情が分からないのですが、ハルニレの巨樹が生えていない地に住む者としては手厚く保護してあげてほしいですね。由来にしてもお箸をぶっ刺したとか本州でよく聞く半ば冗談半分で書かれたようなものとは違った北海道らしさを感じます。ある種、北海道を象徴するような1本ですねえ。本当にいつまでも生き続けてもらいたいものです。

2018/10/31 (Wed) 16:33 | EDIT | REPLY |   

RYO-JI  

いわくつき、かつ落雷ですか!
壮絶な人生を送っているハルニレですね。
幹周のわりに凄みを感じます。
満身創痍な姿に痛々しい気分にもなりますが、長生きしてほしい存在ですね。

恐らく、このハルニレを目指してやって来る人は少ないでしょう。
というか、ほぼ皆無?
それでもこうやって看板を作って物語とともに残していこうという思いが感じられて嬉しいですね。
お酒を供えられていることからも、地元では余程大切に扱われているのでしょう。
恐れられているのかもしれませんが(汗)。

2018/10/31 (Wed) 22:57 | EDIT | REPLY |   
狛

狛  

to-fuさん>
僕もそう思いました。
ハルニレは標高がある程度高くて水気が多い地域なら各地にあるらしいのですが、こうして物語を背負って主張してくるような存在は、やはり北海道のものですよね。
しかも、どうもハルニレに関する物語には、上記のように悲しいものが多いように感じます。
道路を通過するだけでは到底わからない土地の歴史を伝えてくれます。

他の曰く付きのハルニレの「その後」も知ることができましたが、いずれも消滅の運命にあるようです。
神社の御神木などではないですし、自然体に任せるというのが接し方のように見えました。
神社と御神木があったとしても、それは本州から持ち込まれた概念ではないかとも思います。
もちろんアイヌにも樹の魂を尊重する考え方があったと思いますが、あくまで樹は樹であるという尊重の仕方をしていたのではないか……。
などと、当地の巨樹たちを振り返って、北海道の人たちの樹木に対する思いや捉え方を少し学ぶことができればいいなと思いました。

2018/11/01 (Thu) 07:57 | EDIT | REPLY |   
狛

狛  

RYO-JIさん>
それだけ辿ってきた歴史や周囲環境が厳しいのだとも感じました。
その中で長年生きてきるには、選ばれし樹種であり、こうした特殊なエピソードを帯びる必要があったのでしょう。
切れないことは確かだったみたいですね。
れゆえに孤立し、落雷を受けることになってしまった……。

周囲に何もないところなので、地図で来るツーリングの人くらいしかいません。
怪談マニアは興味を引かれるでしょうが、別に祟る樹ではないので、ネットで扱えば満足してしまうのだと思います。
関東人の巨樹マニアとしては、ハルニレの大きいものは北海道! という印象がありますし、立っているうちに見ておいて損はないと思います。
倒れても、道路さえ塞がなければという扱いだと思います。
それが北海道の大地らしいとも思いますね。

2018/11/01 (Thu) 08:25 | EDIT | REPLY |   

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