巨樹を訪ねる 高徳寺のシラカシ

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K-1 / HD PENTAX-D FA 28-105mmF3.5-5.6ED DC WR

 大子町で、夏の巨樹探訪。
 この日のシメは、変わり種を訪ねることにしました。
 とびきり不思議な巨樹、「高徳寺のシラカシ」です。

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 どこが不思議なのか? それをこの目で確かめにやってきました。
 大子町の道の駅から十数分なので、そう僻地という感じはしませんが、ここから先は徐々に山道になってくるぞ……と、そういう気配を感じる土地です。
 高徳寺の看板を見つけ、駐車場に入っていくと、もうすぐ目の前にその樹が立っているのが見えます。
 むむ、あれがそうか……想像よりも大きい樹だ。

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 はい、これがその立ち姿。
 どこが不思議なのか……いや、これはちょっと意地悪な写真でしたが。
 このような大きさ、高さの樹です。
 幹周囲は5.5メートル、樹高が25メートル。
 ちょっと枝ぶりが奇妙な感じもしますが、成長が遅いカシの樹にしては、なかなかに立派だと言えると思います。
 
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 まあ、カシにしてはね。
 ……なんて、勿体ぶっていても話は進まないし、いっぱい言うことも出てきそうなので、種明かしをどうぞ。笑
 どうでしょうか、この写真に、何か違和感を感じないでしょうか?
 勘が良い方ならトップの写真でも気づいたかもしれませんね。

 いつの間にかクイズみたいになって鬱陶しい。
 この樹の中心軸から左右対称に……樹皮の模様が異なっています。
 そう、なんとこの巨樹、「シラカシ」と名はあるものの、シラカシなのは半身だけ。
 なんともう半身はカヤの樹という、珍しい異種合体樹なのです!

 巨樹をそれなりに見てきてみると、合体樹というのは案外たくさんあるのだと気づきます。
 同種の樹が何本もくっついて巨大化しているものが多数派ですが、成長速度の違いによって別種の樹が巻き込まれたり、うろの中に種子が落ちて発芽したりすることによって異種が食い入ってくることもある。
 しかし、種類が異なる場合、普通はその間に力関係の優劣が見て取れるものです。
 この樹のように、50%がシラカシで残り50%がカヤなんて状態は、全く見たことがない。
 しかも、さらっと見ただけでは、いかにも一本の樹にしか見えない見事な融合ぶり。
 その上健康そうだし……その「普通にしてる」って様子が最大級に摩訶不思議なんですけど!

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 背合わせに二神が融合し、物事の内と外を同時に見、一年の終わりと始まりを司る古代ローマの神、ヤヌス。
 あるいはお寺だからと歓喜天を想像すべきなのか……(高徳寺は阿弥陀様のようですが)。
 あまりに奇妙で神秘的な状態なので、そんな想像も膨らみます。
 こちらから見ると、正面はカシの樹。

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 で、反対側から見ればほとんどカヤの樹です。
 植物学的に見ると、カヤが裸子植物であるのに対しカシは被子植物。
 分類の1番目の項目ですでに「違う」と判別されてしまう……要するにどこも似ていない両者が、こうして一体となってしまっている現実。

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 葉っぱだって、ムカデみたいなカヤのものと、写真にも濃い色で写っている広葉樹のカシでは全く違うのに……。
 違うのに、一本の太い幹から、さも普通の顔をして、両方の枝葉が伸びて共同の樹冠を形成しています。 
 見上げて左側がカヤで右側がカシの枝になります……意味がわからん。
 
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 こんな特別な樹があまりにも普通に元気にやっている様子に、だんだんと呆れてきました。
 お寺でも見て、少し気分をはぐらかしましょうか。
 曹洞宗鳳林山阿弥陀院高徳寺というのが正式名で、茅葺の楼門は大子町の指定文化財だそうです。
 この他にも寺の中に様々な文化財を所蔵しているそうで、それについての説明文はありましたが、目の前のミステリアス巨樹に対しては一文の言及もなし。

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 管理の行き届いた綺麗なお寺で、静かで良い環境です。
 左手に見えますのが生ける不可思議、右手は普通に大きな隣人のイチョウの樹です。

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 解説文がないことからも分かる通り、何の記念物指定も受けていず、お寺の環境に恵まれて大きくなることができた樹なのでしょう。
 実際、関心を向けるのは我々のような巨樹愛好家だけだと思われます。
 配達しに来たヤマトさんと挨拶を交わしましたが、何撮ってるんだろ? という雰囲気だったし。
 すごいと思うんですよ、この樹……。

 と、足元に、何か薄緑色の丸っこいのが無数に落ちているのに気づきました。
 見ている間にも、ポトン! ポトン! と音を立てて降ってくる。
 避ける。また落ちてくる、避ける!

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 正体は、まだ若い銀杏(ギンナン)なのでした。
 どういうわけか、熟す前に降るように落ちてしまっている。
 強風が原因なのか……昨晩とか、そんな風吹いたかな?
 見ている前でぽこぽこ落ちてくる様子には、何かしら違う理由を勘ぐってしまいそうでした。

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 その発生源たるお隣さんのイチョウがこちら。
 こちらも幹周囲5メートル近くありそうな立派な樹で、銀杏がつくからには雌の樹。

 ちなみに青い銀杏ですが、綺麗な緑色した美味しいアレが採れるらしく、わざわざ青いうちに収穫する例もあるとか。
 あのギンナン爆弾的な悪臭もないし、触っても痒くならないから、拾ってくれば良かったかな。
 (お寺さんに無断はいけません)

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 その中、未熟な銀杏に混じってカヤの実もいくつか落ちていました。
 こちらも青いままです。
 イチョウだけの問題ではなさそうだとすると、やはり風など、外的要因があったのでしょう。

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 カヤ目線に絞って言えば、相方のカシより、イチョウの方がよほど近い間柄だったのでは?
 まあ、それは分類学上の距離で、物理的身体的な距離はカシとカヤが近かったというわけで……。

 実を見ていて考えたのですが、カヤもカシも、どちらも広義のドングリであり、食べられる。
 もしかして、この双方をミックスナッツ状態で持ち歩いていた人がいて……それを?
 カヤもカシも成長が早くないという点は似ているのかもしれない。
 どちらも巨樹としてはせいぜい6、7メートルが最大級の規模で、同時に生育がスタートすれば、このような奇妙な格好に融合するのかもしれません。
 イチョウとのペアリングだったとしたら……こうはならない。
 もしそうだったなら、今頃ここには、ただ2本のイチョウが生えていただけだったでしょう。

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 全く違う性質の他者を押し退けるでもなく、呑み込んでしまうでもなく。
 互いに互いを支えあって、だからこそ高く立ち上がっていられると言っているようにすら見えてくる。
 同じくらいの、全く違う彼らは、これからも身を寄せ合って共存していくのでしょう。

 面白く、不思議で、珍しい。
 巨樹のバリエーションとしてとても貴重な、印象に残る一本でした。



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「高徳寺のシラカシ」
 茨城県久慈郡大子町上郷 高徳寺
 樹齢:480年
 樹種:シラカシ/カヤ
 樹高:25メートル
 幹周:5.5メートル

4コメント

RYO-JI  

フフフ・・・、もちろん一枚目の写真ですぐわかりましたよ。
いったい私を誰だと思っているんですか?

スミマセン、大ウソです!
己の目の節穴さ加減に度肝を抜かれましたとも。
なるほどなるほどと狛さんの説明に素直に聞き入っていました(笑)。

異種合体樹・・・いいじゃないですか。
我々日本人は島国ということもあって、文化的にも民俗学的にも知らず知らずのうちに、
異種合体に違和感があるのかもしれませんね。
でもそれがかえって貴重であり、面白いと思えますよねぇ。
どちらかが強弱ではなく、共存できているところが素晴らしい。

2018/08/04 (Sat) 21:22 | EDIT | REPLY |   

to-fu  

舐めてもらっては困ります。見た瞬間に…しつこいって。
同じく種明かしされるまでムムムッと唸るばかりでしたが、なるほど言われてみればどう見ても半身がカヤですね。連理の木というやつは何本か見てきましたが、僕が見てきたのは連理という珍しい現象だけが先行したオハツキイチョウ的なアレばかりでした。このカシは巨樹としても実に立派ですね。カシというとどっしりした太い幹で広がる枝葉を支えている印象ですが、半身カヤのスリムな体型でこの枝葉を支えていること巨樹に驚かされます。

そしてカシにカヤ、イチョウと飢饉対策三種の神器が一同に会しているなんて凄い。かつては飢えに苦しむ多くの人々を救ってきたことでしょう。最低限の仕事さえしていれば少なくとも飢えに苦しむことなく生活できてしまう現代のニッポンに生きる我々ですが、つい100年前頃までこの巨樹たちに命を支えられていたこともあったのだと考えると何やら感慨深いですね。

2018/08/05 (Sun) 10:10 | EDIT | REPLY |   
狛

狛  

RYO-JIさん>
何ィ、やっぱこんな目くらましはRYO-JIさんには通用しないのか!?
お見それしました……。

って、良かった、わざわざ「そこそこわかりづらい」写真から並べて行った甲斐がありました(そうなのか……)。
言われてみれば、そうですね。
我々は違うものを取り入れることに脅威を感じる民族ですね。
この樹が生じた頃も鎖国があったでしょうし……そういう根本的な感覚に、この樹の姿は訴えるものがあるかもしれません。
しかも半々でうまく行っているというこの事実、この眺めは意味深だなあと思いました。
県内にあることもあって、また行きたいお気に入りの1本になったように思いました。

2018/08/05 (Sun) 11:43 | EDIT | REPLY |   
狛

狛  

to-fuさん>
うわっ、to-fuさんにも通じないなんて、変に演出して俺って超カッコ悪い……って、ああ良かった(良かったのかい)。
個人的にはかなりこの樹面白い! と興奮してたので、同じように見ていただけてよかったです。
そうなんですよ、大きくなりにくい樹種が2体合体して、なかなか見応えのある大きさで存在している点も評価したい。
そして、真横から見た半々の融け具合がやっぱり面白い。
樹皮や枝葉の表情も、意識してみると全然違う、アンドロギュノス的な奇妙な魅力があります。

確かに確かに、ここにある樹はどれも恵みをもたらしてくれるものですね。
敦賀の西福寺もそうでしたが、お寺にシイやカヤが植えてあるという韻を踏んでいる。
ある意味で、この樹はその恵みを求める人の理想が形になったものなのかもしれません。
そんな樹がお寺にあるというのは意味がないわけがない。
今度行ったら、ぜひ住職さんにお話を聞いてみたいと思います。

2018/08/05 (Sun) 11:52 | EDIT | REPLY |   

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