巨樹を訪ねる 法龍寺の銀杏と榧

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K-1 / HD PENTAX-D FA 28-105mmF3.5-5.6ED DC WR

 遠方への巨樹探訪旅もまとめ終わり、日常としての巨樹探訪……つまりは県内に見るべき巨樹はないかと探しに出かけました。
 県内は気兼ねなくて良いもので、ましてや茨城のひたすらまっすぐな道はやっぱりとても気持ちがいい。
 とはいえ、大子町。
 茨城といえば間違いなく茨城なのですが、もはやほとんど福島県、茨城の最北端です。
 しかも内陸なので、見えるのはこんもりとした山の風景、この辺もどちらかというと福島的……。
 当然、巨樹の面でも期待できる地ということですね。

 ここに、堂々たる実力茨城ナンバーワンのイチョウがそびえています。
 「法龍寺の銀杏」です。
 車を停め、緑に誘われて歩いていくと、その姿がずんずん大きくなって見えてきます。
 ちなみに、手前にあるのは、こちらも幹周6メートルあるというカヤの樹です。
 巨樹の向こうにもっと大きな巨樹。
 いい眺めです。
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 イチョウの巨樹なので、もうそれは、でっかくてあたりまえ。
 でも、これ、ものすごくでけえ……と、どんな身構えも突き崩されるような巨大さです。
 幹周囲は11メートル以上。
 複数の幹がそれぞれ力を合わせて、その存在をより巨大に巨大に……と形作っています。
 
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 別の方向に回ってみると、供養碑のようなものがあります(単純に、お墓?)。
 このイチョウは、本願寺の第二代、如信上人の十三回忌(正和元年・1312)に植えられたものだそうなので、それに関係があるものだと思います。
 ここ法龍寺は如信上人の終焉の地とのこと。

 本願寺とつくお寺は色々なところにあるようですが、ここで言うのはもちろん浄土真宗の総本山である「本願寺」。
 その本願寺に直接言及してくるところを見ても、如信上人がいかに高僧であったか、ここ法龍寺が重要なお寺であったかが伺えます。
 如信上人は浄土真宗の開祖・親鸞の孫に当たるそうで、とても穏やかな人ゆえに信頼され、大きな門徒集団が結成されていた。
 彼の興したその「報恩講教団」がのちに「本願寺」となった……とのこと。
 この土地(大子は、当時、陸奥国上金沢といった)には門弟の草案があったそうですが、そこを訪れた折に病に伏せってしまい、入滅されたそうです。

 なるほど、そういう物語が……(お寺の入り口に解説板があります)。 
 実に詳細であり、十三回忌という節目もなぞっているところから、このイチョウの歴史は正確に辿れると言えるでしょう。
 そういえば、京都のto-fuさんがまさに「本願寺のイチョウ」を取り上げておられました。
 あの「逆さイチョウ」とこの樹とは、遠方にありながら、切れない縁で繋がっていると言っていいと思います。

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 しかし、その十三回忌の記念樹が、実に立派に育ったものです。
 冒頭で「実力茨城ナンバーワン」とあえて書きましたが、この樹を超える数値を持っている樹はいずれも「それ2本じゃないの?」とか「そこは根っこじゃないの?」という、どこか奥歯にものが挟まったような感じを味わうものなので 笑…… この巨大なイチョウをこそ、気分良くナンバーワン! と呼んでみたかったのです。

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 上空を見上げると、折れた幹や、明らかに落雷で炎上して炭化した箇所が見て取れます。
 現在でも最高部は32メートルの高さがあるのですが、折れたせいで樹高が低くなったという記述があります。

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 しかしまあ……規模が大きすぎて、片方で眺めているともう片方が全然視界に入らない。
 反対側にトコトコ歩いて行ってみると(本当、「そこまで行く」という感じ)、腕のように横に伸びた枝があり、そこには気根が。
 例の、乳の出が良くなるという伝承は、この樹には無いようです。
 こちら側は常に日当たりが悪いとか、そういう要因でもあるのか……垂直方向からさらに拡張を狙うこのイチョウの成長意欲を感じ取ることができます。

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 撮影時は5月。
 複雑な枝ぶりが一斉に黄緑色の葉を噴き上げ、視界全部がその色に染まって、壮観でした。
 もう少し来るのが遅かったら、圧倒的緑色の塊と化して、樹がどんな姿をしているのかよくわからなかったかもしれない。
 ちなみに足元には、モールみたいな散り雄花が絨毯のごとく落ちていました。

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 折れたせいもあったと思いますが、あまりの太さに、眺めていると縦横比の感覚がおかしくなってきます。
 何だか、もっと低いような気さえしてきてしまう。不思議です。
 何をしても動じないような頑丈さと途方もない質量を感じさせ、まるで要塞のようです。
 見た角度によって姿が変わるので、見飽きず、長い時間撮影に夢中になってしまいました。

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 それとともに、滞在時間が長引いたのは、このイチョウのそばの環境が心地よかったせいもあったでしょう。
 ここ一帯がフカフカの苔で覆われ尽くしていて……ちょっと、これ踏んでいいの!? と躊躇しましたが、踏まないと行けないところに道があったりするので、フカフカ歩きましたが……。
 イチョウが雨のごとく落とした花は別として、ゴミひとつないし、献花もまだ新しかった。
 きっと気を配ってお世話してくださっている檀家の方がいらっしゃるのでしょう。
 その心意気に触れたようにも思いました。
 一角にあずまやもあり、木漏れ日の下、ゆっくり休憩もできました。
 「撮る」「見る」とは別に、そこからぼんやり「眺める」巨樹の姿というのも、また良いんですよね。

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 解説文。
 この樹の場合、お箸伝説とかではなく、具体的に誕生年がわかっているのでこう書くのでしょうが……具体的すぎて、すぐ更新しなければならないのはいかがなものか。笑
 有余年だから良いといえば良いですが、だったらいっそ700年でも。

 しかし、それよりも、これだけの巨樹が何の天然記念物指定も受けていないことは驚きです。
 町指定のものすらない。
 保護の面では由緒あるお寺の樹であるので安心できますが、茨城を代表する巨樹としてもっと知られてもいいと思います。

 秋に来れば、大子町の山々とともに、紅葉で目を楽しませてくれるでしょう。
 これが真っ黄色に染まるだなんて……ものすごい眺めだろうな。
 同県内といえどかなりの遠さではあるのですが、また見に来たいと思う樹です。


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「法龍寺の銀杏」
 茨城県大子町上金沢
 樹齢:690年
 樹種:イチョウ
 樹高:32.5メートル
 幹周:11.1メートル



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 さて、同時に、すぐ隣にあるカヤにも触れないわけにはいかないですね。
 こちらは幹周囲6メートル後半と、そう書くとイチョウの半分程度のボリュームしかないと思ってしまいますが、カヤという樹種からすれば結構な巨樹です。
 根張りが大きいので、幹よりも根で数値を稼いだところはありそうですが……。

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 こちらの樹も出自がはっきりとしていて、如信上人が最後に訪ねた門弟・乗善房の草庵ができた時、そのお祝いに上人自らが植えたものだそうです。
 それゆえ、樹齢としてはイチョウよりもこのカヤの方が古く、710有余年とされています。
 年齢を重ねてもどんどん巨大になるイチョウと比べるわけにはいきませんが、幹をみると、確かに古木の雰囲気も感じます。

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 根元には大きな空洞もあります。
 特にそれで傷んだような印象も受けない……ずっと昔からこうなっているような雰囲気です。

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 反対側はしっかりとしており、みるからに締まった質感がありますね。
 おそらくまだまだ、倒壊などしないで生き続けてくれるでしょう。

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 解説文。
 イチョウに何の指定もないことは書きましたが、このカヤの方が町指定の天然記念物に指定されているという。
 どういう基準で選定されているものなのか……見落とし? こんなに近くにある巨大なイチョウを見落とす?
 不思議なこともあるものですね。

「法龍寺の榧」
 茨城県大子町上金沢
 樹齢:710年
 樹種:カヤ
 樹高:24メートル
 幹周:6.8メートル

4コメント

RYO-JI  

解説文がなんとまぁ斬新!
ヒューマンスケールが絵で表現されているだなんて・・・。
樹齢に関してもそうですが、もの凄く生真面目な方が作成されたんだろうなぁと想像しちゃいます(笑)。
でも、いいことですよね。

10mを超えるようなイチョウにはまだ出会っていませんが、ヒコバエだらけで幹周を稼ぐのではなく、
しっかりどっしりしているこのイチョウは、堂々として見えます。

それにしてもこれだけのイチョウが何の指定もないのは本当に不思議ですね。
そばのカヤが指定されていることから、指定できない何か特別な理由があるのかもしれませんねぇ。
樹にしてみればそんなことどうでも良いでしょうが、保護の観点からは是非指定して欲しいと思います。

2018/07/26 (Thu) 22:30 | EDIT | REPLY |   
狛

狛  

RYO-JIさん>
ちゃんとこの樹の姿のシルエットまでしつらえてあって、いい感じですよね。
大子町はやるなあ……と思いきや、ここの樹だけなんですよ。笑
天然記念物指定は今でもされてないし、この解説板は、お寺がお金を出して民間にやらせたのかもしれませんね。

イチョウもだいぶ色んな姿があって面白いですよね。
結局どんな苦難も柔軟に乗り越えてしまいますが、色々な怪我や制約がなければ、この樹みたいに育ちたいんじゃないかなと思います。

ほんと、指定はしてくれた方が双方にとっていいんじゃないかと思いますよね。
大子町役場に電話してみましょうか。
「なんで天然記念物指定しないんだ。しろ」
登録に予算とか、本数の制限があるとか、そういうことなんですかね?
でもなあ、これを除外するかなあ……つくづくよくわかりません。
それだけ、素晴らしく巨大なイチョウであったと思います。

2018/07/27 (Fri) 21:13 | EDIT | REPLY |   

to-fu  

RYO-JIさんと被りますがヒューマンスケール撮影に苦悩する者としては、どうしてもそこに食いついてしまいますね。何て親切な案内板なんだろう 笑

しかし立派なイチョウですね。案内板の遠景シルエットを見ても形が綺麗にまとまっていて、とても幹の折れたイチョウだと思えません。これが無指定ってホント何考えてるんでしょうね。逆に、え…これが?またまたご冗談を…みたいな天然記念物も散見するくらいなのに。

ただ間違いなく近い将来天然記念物指定されそうな気がしますし、そうなってしまうときっと保護柵やなんかで根本に近付けなくなりそうなので、この状態で訪問出来たのは実はラッキーなのかもしれませんよ!

2018/07/28 (Sat) 00:43 | EDIT | REPLY |   
狛

狛  

to-fuさん>
評判がいいですね、この案内。笑
でもここだけなんですよ。茨城中の巨樹をこれで作って欲しいところです。
実際このイチョウは巨大すぎるのもありますが、全体を遠くから眺められるわけではないので、客観的にこう言う図がついているのは価値があると思います。
うーん、やっぱり、お寺さんが「こう言う図を作ってよ」と民間に発注したと言う線が強いかなと。
逆に……どれとは言いませんが、お寺がカネにモノを言わせて強引に観光名所にしたり、国指定天然記念物にしたり……くだんの裏口入学みたいじゃな、と思いもします(注:樹は何も悪くない)。
やはりその凄さというのは、素人目でもなんでも、実際に見て確かめないとダメですね。

おっしゃる通り、見るぶんには、いまの状態がベストといえばベスト。
根の状態もそうですし、あのふかふか苔も、踏み荒らされて欲しくはないです。

2018/07/28 (Sat) 15:39 | EDIT | REPLY |   

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