巨樹を訪ねる 片波川源流域伏条台杉群生地

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K-1 / HD PENTAX-D FA 28-105mmF3.5-5.6ED DC WR

 京都のほぼ最北と言っていい、あとはもう人も住めない山林ばかりという地域。
 京都府天然記念物指定の芦生杉の群生があるということで、現地在住のto-fuさんに案内してもらい、探索に挑みました。

 舗装道路があるうちからかなり濃い山々を眺めつつ、目的地へは未舗装のガタガタ道を数キロも登っていかねばなりません。
 そこからはまさに山中、トレッキングとでも呼べるような道を歩くことになります。

 苦労もあったものの、そこでしか味わえない世界がありました。
 ただし……そこに生きる巨樹たちに見せつけられるそれはかなり強烈。
 植物、樹々のことといえど刺激が強いと思える写真が続きますので、ご注意を。

 この辺りに生育している杉は、芦生杉と呼ばれるもの。
 主に日本海側の雪深い地域で生きているため、真っ直ぐな杉のイメージとはかけ離れた奇怪な樹形になることで知られています。
 生物学的にはどちらも同じ杉ですが、日本海側のものを「裏杉」、太平洋側のものを「表杉」とも呼びます。

 この定義でいけば、今回のものは裏杉。
 これまでも山形県の「幻想の森」、富山県の「洞杉」などインパクトのある裏杉の群生を見てきましたが、今回はどのような感じでしょうか。

 今回特有のワード「伏条台杉」とは、植物の「伏条更新」すなわち、雪などに押さえつけられた枝などから根を出し、複雑な形に育って行くという性質から出た名称とのことです。

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 チェーンが張ってあり、車両立ち入り禁止を受けてからというもの、なかなか森への入り口がわからず。
 行きつ戻りつがあり、ようやくそこだという森の中に踏み込む。
 ただ一つある案内板にはいろいろな名付きの杉が示されていますが、個々に解説はなく、後で写真で振り返ってもどれがどれだったのかはちょっとわかりません……。

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 しかし、そういうことは問題ですらないということがすぐにわかります。
 異形。
 あまりにも異形な、変わり果てた姿の杉たちが矢継ぎ早に現れ、小賢しい思考力を奪われてしまうのです。

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 上の写真の裏側はこのような凄まじい姿。
 この樹に関しては杉としてはすでに生を終えている……。
 へし折れた主幹に別種の木々が何種類も着生し、土を求めて凄まじい勢いで根を這わせています。
 杉に限らず、この地域では他の樹々の勢いも、過激なまでに容赦を知らないのです。

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 斜面を歩き、山に分け入って行くに従い、どんどん空気の質が変わって行くような感じがありました。
 自然観察路というものの、ここは自然の恵みに感謝したり緑に心を癒されたりする場所ではない。
 
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 弱肉強食の世界。
 そう思わせるような緊張感が張り詰めている森だと感じました。
 そう、ここに居る者たちは、樹木というよりはむしろ野獣に近い……。

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 ただ見ている前でその場面が展開していかないだけで、樹木の世界も生存競争の面では殺伐としたものであることを、心の底から思い出させられる光景が続きました。 
 雪の重みのため何度もへし折れ、捻じ曲げられながらも、生きて生きて生き続けている。
 弱ったものがあれば他種の敵に踏み潰される。
 根をねじ込まれて、内側から引き裂かれる。

 しばらく身を置き、撮影に集中するまでは、これらの樹々に近寄ることも躊躇われるかのようでした。
 一緒に来てくれる友がいて良かったと思いました……。

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 かなり大型の個体。
 後で調べてみると、「大主杉」というものに似ています。
 幹周は10.5メートルとのこと。
 この樹が単独で生えていたとしたら、必ずやこの姿を形容するための固有名詞が授けられたことでしょうが……この森の中にあっては、比較的健全な巨樹と見えてしまうから不思議です。

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 樹齢に関するデータはないのですが、多くの樹が恐らくは500年からの年月を生きているのではないでしょうか。
 過酷な環境ゆえに弱ったものはすぐに死に去って姿を消す。
 生きていけるものだけが生きて行くのでしょう。
 そこへ行くと人間の優しさとは何するものか……なんて思いますが、保護林なので、傷んできた樹には養生が見られるものもありました。
 杉同士は不思議と同じくらいの距離を保って点在しており、これも適応と淘汰の故なのかもしれません。

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 珍しく単幹ですが、これもまたおかしな形をしている。
 あまりにも不自然な枝の形。
 動物の触腕のようにうねったかと思えば、突然垂直に天を指す。
 狂気の合間に不意に正気に戻ったかのように。

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 弱肉強食の世界と書きましたが、身を置くうち、それよりも魔界に近い世界なのではないかと思い始めました。
 それほどどこを見ても常軌を逸する光景ばかりが続く。
 何一つとして人間の知性がデザインできないような凄まじい形態をさらけ出している……。
 
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 内臓剥き出しで生き続けているかのような樹。
 生きては死に、死んではまた生き……。
 「死は生の一部である」などと知ったようなことを我々は言いますが、この生き物たちは、現在進行形で「死にながら生き続けている」のではないか……。

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 とどめを刺す、さらに凶暴なスカベンジャーのような別種の侵攻。
 乗っ取られ、土に還るまで完全に引き裂かれる。
 杉は、これらの種に出し抜かれないように成長を止めず、速く強く高く生きなければいけないのでしょう。

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 もはや樹であることをも忘れてしまったかのような異形。
 どこが根でどこが幹なのか……どうやって生きているのか?
 それとも死んでしまっているのか?
 死んでいるふりをして何かを企んでいるのではないか。
 背を向けているうちに追いかけてきそうな不吉な気すら感じ、近づくのも躊躇われました。
 はっきり言って怖かった。

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 人間の小さな正気が簡単に機能不全に陥る眺め。

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 さらに立ち入れない深い保護森林があるとのことで……その辺りは一体どうなっているのか。
 見たいような見たくないような思いです。
 間違ってもこの森で夜を明かすような目には遭いたくない!
 クマばかりか杉に取り殺されてしまうかもしれません……。
 雨という条件もあったでしょうが、強烈な体験ができました。

 次回、この群生地で最大の幹周を誇る「平安杉」に迫ります。


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「片波川源流域伏条台杉群生地」
 京都府京北片波町  
 樹齢:不明(〜800年)
 樹種:スギ
 樹高:15メートル前後
 幹周:〜10メートル前後

4コメント

to-fu  

ただただ圧巻でした。
何と言いますか、この場所においては人間なんて非力な迷子でしかないんだなと。陽光を我に!と言わんばかりの成長ぶりは、もう純粋に暴力だなと感じました。

ここはもう一度行かないと…とあれからずっと考えていますが、行く以上は相応の心構えで臨みたいのでタイミングを伺っています。

本当に一人ではなかなかチャレンジできない場所だったので、狛さんが同行してくれて心強かったです。まあ、そんなことよりも昔のように一緒に撮り歩きできた時点で感謝の気持ちで一杯ですが。またよろしくお願い致します。

2018/01/21 (Sun) 21:11 | EDIT | REPLY |   

狛  

to-fuさん>
改めまして、導いてくださってありがとうございました!
ここはまだマイナーですし、何より深くて怖いので、独りでは多分行けなかったと思います。
実際、樹々を目にしてからも少し固まってました、僕は……。

こうして撮って持ち帰ったものを見たり、地図を見直したりするに、どうしてもやはりもう一度となりますね。
もう一度行けばもう少しまともにあの植物野獣たちに向かって行けるのではないか……と。
それでも独りで行く気はしませんが!

これもスナップの変種として……バリエーションが増えることは嬉しいですね。
またいろんなとこへ、いろんなものを撮りに出かけましょう!

2018/01/22 (Mon) 10:22 | EDIT | REPLY |   

RYO-JI  

暖房でポカポカの部屋にいるのに鳥肌が止まりません。
まだ見ぬ裏杉というものに少し憧れを持っていましたが、この杉群を見て考えが変わりそうです。
野獣、狂気、魔界・・・これまでの巨樹巡りではイメージしたことすらないフレーズです。
写真はもちろんですが、狛さんの言葉からも味わった恐怖が読み取れます。
まともに対峙して写真を撮る自信がないです。
1本でもこんな森には一人では入りたくないですが、それが群れであるなんて。
いや、絶対に一人では無理です。
クマも怖いですけど、その怖さの質が全然別物で鈴やスプレーなどの装備で対策できるもんじゃないですもんね。
でも巨樹好きの端くれとしては是非見てみたいです。

2018/01/24 (Wed) 21:36 | EDIT | REPLY |   

狛  

RYO-JIさん>
多分、こうした気配というものをよく知られているRYO-JIさんならばこその反応と言っていいかと思いますが、巨樹というものに神性を感じることがあるならば、逆に魔性を感じることもあってしかるべき……と、この森は教えてくれます。
いやほんとに怖いです。一人じゃなくてよかった。
人間、やはりこのおつむの理解を超越してしまう存在には恐怖するしかないのだなと思い知らされます。
しかし、こうして写真を見てみても、どうしたっておっかない。
今しも襲いかかって来そうな姿。to-fuさんをひとくちで食っちまいそうじゃないですか。ねえ?(震)


2018/01/25 (Thu) 22:53 | EDIT | REPLY |   

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