巨樹を訪ねる 八ツ房杉

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K-1 / HD PENTAX-D FA 28-105mmF3.5-5.6ED DC WR

 「見てみろ、この慌てぶりを。
  怖いのだ。怖くて仕方がなかったのだ。
  なりふり構わず、蓋をしたのだ。」

       (大友克洋「AKIRA」より)
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 かつて。
 朝廷は、類稀なる力を帯びたる陰陽師、賀茂◯◯(墨塗により消失)に命じたことがあった。神界への扉を開くべしと。
 命じられし賀茂◯◯は大陸より持ち帰りしと云う術を十四夜の祭祀の後に行使し応えんとした。

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 しかるに術中何らか謬りがあったか、場は凄まじく揺らぎ動き、黒雲稲妻のさなかより、人智を遥かに超越せし異常なる何者かが現出せんとした。
 其処に居合わせた多くの者が死に、賀茂も大傷を被った。恐れた賀茂は自ら開けし神界の扉……と思しきもの……を慌てて封じ込めに当たった。

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 現世に這い出さんとして居た何者かは又凄まじく抵抗を試みたが、遂に賀茂の陰陽術の前に完全なる現出を阻まれた。
 怒号の如き轟きが過ぎ去り、辺りに満ちる静寂の中に人々は見た。
 異界より現出せしめんとした邪悪なる何者か……その姿を模したかの如くの八本の異様なる杉の巨樹が、身をくねらせるように其の場に生え出でて居た。

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 陰陽師は云う。
「異界より来し者、現出を阻まれん。其れ、此世の物ならぬ為此世に留まること能わず。故に此世に在りし物象にて其の身置換されたるが此なる異形の杉樹也」
 其手に印を結びつつ云う。
「吾の次なる術成就せし時、者々皆々、此処に見、此処にて聴きし物事総て忘れん」

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 其術が解けし後、忘我とせし皆に向け再び云った。
「此なる杉樹、嘗て磐余彦天皇(神武天皇)、大和平定の八月莵田に至るに高城に陣を構えし時、御手植えせし物也。大霊樹也」

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 賀茂◯◯なる陰陽師は何処かへと去り、後の事は誰も知る者が居ない。
 杉の巨樹の元には後に桜實神社が祀られるが、八ツ房と呼ばれる此杉が、八本の杉の癒着し物か、一本が八本と裂けし物か、又、何故に他の杉樹の如く直立せず皆地を這い生きるのか、此れも又、誰も知る者が居ない……。

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 ……と。
 この樹を前に息を飲みながら、ずっとこれに類することを妄想していました。
 ここへと連れてきてくれたRYO-JIさんとのやりとりも、きっと上の空だったと思います。
 それだけ、この異様な杉の発する存在感は圧倒的なものがあったのだと思います。

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 一箇所より湧き出すかのように、八本の幹が、直立せず、空をのた打つかのようにうねっている。
 異様な、しかし静かな樹。
 そこから、現実にだいぶ長命であることも察せられます。
 2000歳以上という予想もありますが、それも大袈裟とは思えないくらいの気配が、この樹には確かにある。
 そこがまた神武天皇お手植え(!)であるとか、かつては別の何かだったんじゃないかとか、漂うおかしなモヤを振り払いきれない原因でもあるかもしれない。

 見た目だけにせよ、この幹の形状、樹皮が剥けたところの朱を塗ったかのような色、自重崩壊寸前でワイヤーに縛り付けられているところまでもが、見る者を戸惑わせ、仰け反らせる。
 もはや伝説そのものに根っこを張ってしまっている巨樹なのだと思わざるを得ませんでした。
 
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 解説文。
 「桜實神社」とは何と読むのだろうと首をひねっていましたが、どうやら「さくらみ」で、つまりは「桜実」。
 チェリーです。

 国の天然記念物指定になっていますが、だいぶ老朽しているのも隠せません。
 大和の国の生ける伝説として、どうか健やかに。


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(上の写真はRYO-JIさんが撮ってくれたものです)

「八ツ房杉」
 奈良県宇陀市菟田野佐倉 桜實神社  
 樹齢:不明(2000年?)
 樹種:スギ
 樹高:25メートル
 幹周:20メートル

6コメント

さかした  

あー、これ色がすごいな。
鉄で出来た何かのようだ。
奈良だねぇ。奈良だよぉ。

文章がおもしろかったので続き書いてください。
文章を山田章博の絵で想像しました。

2018/01/06 (Sat) 22:23 | EDIT | REPLY |   

狛  

さかしたさん>
若干色あせた感じの神社の朱色よりもよほど赤かったです。
関東の杉でこういう印象のものってないので、すごく異質でした。
これが奈良の巨樹か、と。まさに。

山田章博氏、超懐かしいです。
プレステのゲーム作ってた時、プロジェクトで接近したことがあるのですが、もう20年も前なので大半忘れています……(笑)。
いいですよねえ。あの雰囲気。
陰陽師が偽の話を流布させたのは、結界が壊れた時クトゥルフ的なのが復活する恐れがあるからで、八ツ房杉が寿命を迎える時、1300年ぶりに陰陽師が南極より戻り、再びの死闘の火蓋が切って落とされます。
そういう。

2018/01/07 (Sun) 08:16 | EDIT | REPLY |   

to-fu  

いや、これホント凄いですね。
異界から何かヤバいものがドバッと溢れてきたようです。

これ見ちゃうともう神武天皇は間違いなく実在して、この木を植えたんだろうなあと納得してしまいます。それくらいの有無を言わさぬ迫力。

奈良市外は(良い意味で)魔境ですよねえ。羨ましい。

2018/01/07 (Sun) 22:44 | EDIT | REPLY |   

RYO-JI  

この時、そんな妄想をされていたんですね(笑)。
でも一目見ただけでその巨樹の本質を見抜き、そんな妄想ができるとは流石です。
私は3回目でしたけど、『スゴイなぁ』程度でしたから(笑)。

同じ場所に行ってそれぞれ写真を撮ると、自分のと比較できて面白いし、勉強になりますね。
狛さんはそういう切り取り方をするんだなぁとか、そこが気になるんだぁとか。
腕の差はともかく(汗)、カメラの差とか(笑)。

2018/01/07 (Sun) 22:46 | EDIT | REPLY |   

狛  

to-fuさん>
そうなんです……。
どう見ても異界からドバッという感じにしか見えなかったので、こんなことを考えてしまいました。
樹自体からは邪悪さが感じられないところがまたポイントです。
なんというか……とにかくとんでもないことが起きてこうなっちまった! ということを頭が勝手に考えてしまうんです。
巨樹観察の醍醐味を感じます。

奈良はすごいと思いました。
奈良の風土と土地がこういうものを育ててるんだもん、と、実は当たり前のことを僕もずっと考えていました。

2018/01/08 (Mon) 17:18 | EDIT | REPLY |   

狛  

RYO-JIさん>
いやいや! これはこの巨樹の本質なんかじゃないですよ!(笑)
すぐイケナイ妄想に浸ってしまう僕の悪い癖です。
また、RYO-JIさんと一緒に行ったせいで、そういう妄想にすぐに没入できたとも言えます。
全く興味ない人と一緒に行くと、こういう風にはなりません。

いや、これはRYO-JIさんに限らずですが、こちらこそ色々と勉強になることが様々あります。
そういう点でも一緒に撮り歩ける仲間がいるというのはとても贅沢なことだなと思います。
何よりすごく楽しいですしね。
機材のことも、こういうことがないと他の人が使ってるのはよくわからないですしね。

今回はRYO-JIさんのご案内に乗っからせて頂いてしまいましたが、次回は僕が案内したり、二人とも見たことのない巨樹の元に行ってみるとかしてみたいものです。

2018/01/08 (Mon) 17:47 | EDIT | REPLY |   

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