伝説の杉群落をもとめて(2)

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K-1 / SIGMA 28mmf1.8 EX DG / FA35mmf2

 5月、ゴールデンウィークに、僕は一体何をやってんでしょうね……。

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 例の駐車場(前の記事参照)で再び気を引き締め、歩き続けました。
 今度は2.5キロという目安があるし、道が間違ってるんじゃないか? という疑念も払拭したわけなので、これはもうどんどん行くしかないでしょう。
 行けば、確実に目標にたどり着ける。

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 人生で最も辛いのは、やはり目的を見失った時でしょう。
 道険しくても、行けばその先に必ず求めるものが待っているとわかっていれば、頑張れる。
 人は強くなれる。
 ……まあ、クマより強くなれるかは別としても。

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 数十分歩いたか、開けた場所に出ました。
 川沿いが整備されていて、積雪の合間にもちょっとした公園のような雰囲気に見えます。
 どうやら見所のひとつ「蛇石(天然なのに大蛇が巻きついたような姿になっている石)」があるところまで来たということです。
 車が停まっていましたが、これは管理関係の人のもののようです。

 同じ道を通るんだから、蛇石は帰りにでも寄って見ることができる。
 それよりも、傍に立つ杉の樹が、これまで歩いて来た林道のものとは明らかに違った雰囲気を放っているのが目を引きました。
 幹周りは4メートル以上はありそうで、いわゆる一本杉のような形状には程遠い、曲線的なフォルム。
 ここから先、杉はこのような姿に変貌するという、目印を担って立っているかのようです。
 登坂が続いたせいで大方汗まみれでしたが、気分は高まりました。
 先に行くぞ!


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 ……って、10メートル。
 除雪されてないって、まじかよ。
 行けるのかよ?
 少なくとも警告文のようなものはなかったし、よく見ると、先に歩いた足跡がついてるのも見える。
 一歩一歩進んでいくことにします。

 雪は締まっているものの、これまでとは比べものにならないくらい歩きづらい。
 最低2.5キロは林道を歩くと分かっていたので、散々履き潰したいつもの靴を新しいトレッキングシューズに取り替えてあります。
 それでもグリップが効かない。
 防水メンブレンが新しいから、それだけでもありがたいんだけど……やべえな、進む速度が半分以下だ。

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 人生、なんて言うからこうなる。
 これより先は試練の連続でした。
 雪がなくなったと思えば、今度は流れが道を横切ってる。
 路肩を歩くなどしてかわして行くものの、ところによっては本当に水の中に足を踏み入れねばならないところも。

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 しかし、道の行く先がこんなというのは、どう解釈すればよかろうか。
 ジャージャー冷たい雪解け水がたいへんに効率よく流れてて、「道と書いて川と読む」その心は? 
 ……知らねえよ、今の目の前のコレだよ、整ってねえよ、とかいう破綻した謎かけをしつつ、まさか水の中を歩いて雪のトンネルを進むわけにもいかず。
 大きく斜面を回り込む決断を余儀なくされます。

 三脚を捨て置いてきたのは、奇しくも正解であったと言わねばなりません。
 歩くだけでも精一杯なのに、あんなもん持って行けねえ。
 いや、これは……と辺りを見回し、三脚の代わりに手頃な枝を拾得します。
 引っ張ってきて、蹴りを入れて手頃な長さに折る。
 アイテムってやつだ。
 三脚を捨てて杖を得る、まさかこんな道中?

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 しかし、道の険しさの通りというべきか、時折現れる杉の姿は、ますます異様なものに変わっていきます。
 我々がよく知っている普通の姿では到底生きてはいけないのだというような、強烈な印象を残します。
 それでも折れ、倒壊し、運が悪いものや弱ったものは消えて行く。
 今手にしているこの杖も明らかに折れた杉の枝。
 とても軽いのに身が締まってて良材です。

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 険しい道から少し横を見れば、絶えず清流・片貝川の流れが目に入ります。
 青い水は美しいが、落ちたら命はなさそう。
 片貝川は日本アルプスに端を発し、そのまま富山湾に下る川で、その高低差は2000メートルもあるのに、距離はたった20数キロという、つまり日本屈指の急流なんだそうです。

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 道もまさにクライマックス。
 というか、道じゃなくて……雪崩?
 雪崩です、明らかに。
 雪の照り返しに目も眩み、汗まみれで上着を脱ぎ、杖に両手でつかまらないと進めない。
 こういうのをいくつも乗り越えて行きましたが、正直言えば、行くべきではなかったのかもしれない。

 こんなのは道じゃない。
 すごい勢いで雪解けしており、所々、ズボッと膝まではまることもあった。
 杖を先に刺して、一歩一歩雪が締まっているかを確認しないと歩けない。
 いいですか、例えば雪崩の厚さが3メートルあって、中が溶けて空洞になってるのに気づかず踏み抜いて落ちたら?
 足を傷めて這い登ることもできず、ケータイを見れば完全に圏外、誰もこない。その心は?
 ……クマちゃんの餌だよ。

 駐車場にも至らず戻ったカメラマンよ、あんたはある意味では正しかったのかもしれない。


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 地形が険しさを増す中、杉たちの異形ぶりも際立ち……


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 そして、カーブを回って行った先に、突如として巨樹は姿を現しました。
 名もなき野生の巨樹、洞杉です。
 その樹は、崖の上から身を乗り出すようにして、こちらを見下ろしていました。

(以後、「巨樹を訪ねる」の記事に続きます)

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