晩秋 福島・山形巨樹行(2)

MX-1
北への夜道をひたすら走る。(※第一回はこちら)
ひとりで走る道中、FMラジオは明瞭に入るものの、最新のJポップなんかには全然興味がなく、最新アートだとかミュージシャンの喋りだとか、浮ついた話題にはすぐ飽きてしまう。
そういう時は濁った音声のAMラジオだ。あのくぐもった音声が不思議と落ち着くとともに、結局こっちの方が内容も面白いことが多い。
のんびりとした気分で夜道をまっすぐ走るのは悪くない。

車のひとり旅でちょっと難しいなと思うのは、その移動中に他の人との出会いが少ないこと。
鉄道や徒歩の旅は、移動している間にも土地の人や旅人と出会うことが頻繁にあり、僕のでかいリュックやカメラを見て、あるいはその地方のものではない言葉のアクセントを聞くなどして、「どこから来たのか?」「どこへ行くのか?」なんて話しかけてくれたことも毎回のようにあったのだけど、車だとそうは行きづらい。
なので、道すがら前をずっと同じ方面に走っていく車や妙な個性を放つ車には、ちょっとした、一方的な親近感を覚えたりする。
この日は出発して国道に出てすぐに同じフィットが前を走ることになり(サーファー風の男の人が乗ってた)、50キロ近く一緒に走っていたのだけど、「あらの」に寄ってお別れ。
ポークを食べてから先は、いい感じに飛ばせるような道になるのだけど、ありがたくもパトカーが前に付き、ペースカー状態に。途中、何度か「ゆずり車線」(遅い車はゆずり車線に変更し、先をゆずる)というのが出てくると、65キロくらいの速度でパトカーはゆずる方に移動する。
ねえ、それって罠仕掛けてんですか? ゆずってんの追い抜いたらすぐファーンとか言ってマッポの点数って奴じゃあないんですか?!(笑)

などということをやりつつ、そんな中で前に来たのが、「トラックを積んでるトラック」。けっこうスピード出してて、ちょっとしたことでガタガタ揺れる。こんな時間にトラックにトラック積んで、どこへ行くんだろう。そうせねばならない理由ってなんだろう。色々と想像してしまう。
そのうちに、このトラックとも別れ、ふたたび独り。
トンネルが出現すると、ますます内陸に突入して、日本の背骨に食い入って行くんだなという気分になる。



真っ暗な田舎道の中に、いつも唐突に現れるように感じる矢祭町の商店街を抜ける。
ここからは福島県、走行距離はおおむね100キロ。時刻は21時。
茨城と福島の境界へも、それとわかるくらい、ここ数ヶ月で数度訪れたのだな、と、そういう実感。

さて、山形という行き先は決まったものの、具体的にどこまで行こうかはまだ漠然としたまま、日が変わるくらいの時刻になってきた。
山道が続くのかと思いきや、予想外に道は工業都市のようなところを通り(郡山付近)、無機質なバイパス道路が続く。
夜通し走る大型トラックが攻撃的にズンズン煽ってくる。感じ悪いなあ、と車線を移ると、ぐっとスピードを上げて、また前に走ってる車の後ろに食いついていき、その車をどかしている。
そんなのが何人もいて、90キロくらいで走りながらブツクサ言う回数が増え、少々目もショボついてきたので、ちょっと危ない兆候かも知れないと思った。
ここらでちょっと寝ておくことにする。気が短くなるのも疲れてる証拠。そういえば、出発前は丸一日働いて来た後だったな、と思い出す。

どこか広いところに停めて……と、今夜の停泊地を探してみる。
安心なところと言えば、道の駅かな。
またちょっとバイパスを進んで、道沿いに規模の大きな「道の駅 安達(福島県二本松市)」を見つけたので、ここでビバークすることにする。
安達が原ってえと、その昔鬼婆が出刃包丁研いでたとこじゃないかね。今時、そういうゆるキャラは……さすがにいないか(笑)。
当然物産等のお店は皆閉まっていたけど、トイレとコンビニが終夜開いていてくれるのがありがたい。

トイレに歯を磨きにいく。息が白い。
ここまで来ると、さすがに茨城の海縁とは違って空気がかなり冷たい。気温差で車のウィンドウはあっという間に曇った。
念のためと思って積んで来た冬用の上着も着込みつつ、寝床の準備に取りかかる。
思いついて出て来た旅でありつつ、5月の佐渡旅行の経験もふまえて手にいれた寝袋を積んできた。
佐渡の時は折りたたみマットレスを持ち込んでいた「グランド・フィット・ホテル」も、寝袋にするとかなり荷物がすっきりする。
フィットはリアシートを倒すとフルフラットになり、狭いながらも足を伸ばして寝ることが可能。シートのジョイント部が固くて痛いのは、980円のヨガマットで解決(笑)。
しかし、ちょっと予想外だったのが、寒さ。
寝袋ってのもピンキリで、冬山で使うようなマイナス10℃とかでも寝られるような奴(2万円くらいする)はムリだし、車の中なんだから大丈夫だろと、ごく一般的なの(7℃までOK、4000円)にしたのだけど、すっぽり入ってみても足先が寒い。
気温は路肩の温度計で3℃くらい、そこから夜明けにかけてまた下がるだろう。これはなかなか厳しい。
山形への先は長いし、ちゃんと眠っておきたいから、なんとかせねば……と、その時ふと思い当たったのが、ダッシュボードに入れたままになっている、あるモノのことだった。

それを入れたのは、先の震災の直後。うちの地域もライフラインが断絶し、橋が通行止めになったりで、車の中に孤立する局面もあった。3月だったけど寒くて、家族内でアルミの保温シートを配って、車で携帯するようにしたのだった。
いい機会だし、性能がわかんないと被災時にも難儀しそうだから、これ、使ってみようか?
さっそく広げて寝袋の上からかぶってみると、こいつは不思議、ぺらぺらなのに、嘘みたいに暖かくなった。見た目はともかく快適そのもの。
あとは、ペリメーターゾーン(窓周囲の気温急変帯)を布かなんかでなるべく覆えば、とりあえずOK。
車内も暗くできるし、フリースの膝掛けをひっかけておく。

やれやれ。
寝床ができたので、寝そべって地図を広げ、明日の目的地を探ってみる。
ランドマークの巨樹を探り、どの辺にあるのかを確認。
そこへ至る道のりに、なにかついでに寄るべき面白いところはないかと探す。
いや、そんないつものことより、この旅の終着点がどこなのかが問題なのだが……実際走ってみて、体力と時間と、帰りの分のそれも含めてどこまで行けるのかがよくわからない。
しかしここで無難な線をとっても面白くない。福島を「近い」と蹴って走って来たのだから。
とりあえず終着点は考えないことにして、そうだな、今晩は風呂に入れなかったのだから、明日朝早く温泉にでも寄ろうと、それは決めた。街道沿いに温泉マークが点々と並んでいるのだ。
スマートフォン……は持っていないので、車なのをいいことに、Macを積んで来た。日帰り入浴が可能な温泉を検索する。結構、日帰りはやっていないところも多いのだ。
だいたい固まってきたので、フードをかぶって寝てしまおう。
0時30分。
明日は文字通りの早朝に出発することにする。
おやすみ。
(つづく)
